LPGC WEB通信  Vol.92  2022.01.04発行 

九州・沖縄地方LPガス懇談会の概要

 本年度最終の地方懇談会となる九州・沖縄のLPガス懇談会(対象県:福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県)を、11月24日に開催しましたので概要を報告します。
 本年度の議事進行も、長期に渡り九州・沖縄地方LPガス懇談会で総括コメントをいただいている福岡大学商学部の笹川教授に併せてお願いしました。

LPガス懇談会について
(1)目的  LPガス取引適正化の観点から、LPガスの諸問題について、消費者団体、
       事業者団体、自治体、学識経験者等が一堂に会して意見交換・議論を行い、
       関係者相互間の理解を深めると共に、LPガス産業の健全な発展に資する。
(2)方法  全国9ヵ所の各経産局管内を対象にWEB会議にて開催する。
(3)参加者 消費者委員…………各都道府県消費者団体の幹部等
                調査・広報委員会消費者委員
       事業者委員…………各都道府県LPガス協会の幹部等
       学識経験者委員……知見を有する大学教授等
       自治体………………各都道府県のLPガス担当部署及び消費生活担当部署
       経済産業省…………経済産業省、地方経済産業局及び産業保安監督部


議事の概要
(1)開会挨拶
 九州経済産業局 資源エネルギー環境部 次長 下津浦 一博
 九州では全世帯の約5割の326万世帯がLPガスを身近なエネルギーとして使用している。LPガスは供給体制が整備され、可搬性に優れ、貯蔵が容易であることから、災害発生時などの緊急時にも貢献できる分散型のクリーンなエネルギーである。他方、電力及びガスの小売り自由化により、消費者のエネルギー選択の幅が広がりLPガスをとりまく環境は大きく変化している。こうした中、LPガスが重要なエネルギーとして消費者から選ばれ続けるためには、保安はもとより価格の透明化の確保、新型コロナウイルス感染(以下「コロナ感染」という。)下においても消費者にとって魅力的なサービスを提供することが重要である。本懇談会では消費者、学識経験者、LPガス事業者(以下「事業者」という。)、行政が意見交換を行い、消費者ニーズを十分にくみ取ってLPガスの需要拡大に繋げていただきたい、と挨拶がありました。


(2)懇談
議事進行:福岡大学商学部 笹川 洋平 教授
テーマⅠ.「LPガスの料金透明化・取引適正化の現状について」
 議事進行の笹川教授から資源エネルギー庁(以下「エネ庁」という。)、エルピーガス振興センター(以下「振興センター」という。)の事前プレゼンに関する要約説明があった後、調査・広報委員会、片野委員から次のような発言があった。
 LPガスは水道、電気とともに生活の基盤である。コロナ感染下にあって消費者も事業者と同様に生活レベルが二極化する傾向があり、生活の苦しい人には安心、納得して暮らせる料金体系が重要だ。事業者は消費者の声を聞き円滑なコミュニケーションと情報発信に努めていただきたい。

 続いて消費者委員から次のような発言があった。
 エネ庁のプレゼンには従来にない内容が盛り込まれ消費者団体の参考としたい。生活設備の貸与による費用が消費者負担となるのではないかとの懸念がある。料金のコスト積み上げ状況を明らかにすべきであり、この点精査を継続願いたい。(大分県 小野委員)懇談会に参加して3年になるが、料金透明化・取引適正化は毎年議論になっている。この間の議論の進捗を国としてどうとらえているか。(熊本県 田川委員)
 田川委員の質問に対しエネ庁橋爪企画官から次のような回答があった。
 元々LPガス業界は料金を公表せず、事業者は顧客を囲い込むという事業戦略であった。その慣行を破り適正な競争を促すべく平成29年に料金透明化・取引適正化ガイドラインが設定され、9割以上が料金公表している。しかし料金公表にホームページ(以下「HP」という。)を十分活用できていない。自営業的小規模事業者が6割ほどあり、このような事業者にはHPのメリットが少なく、むしろコスト増と考えられている。現在HPは店の看板のようなものだが、HP設置を法律で強制できないし、設置への説得も難しい。この先何年か推移を見てみたいが、HP設置率があまり上がらないようだと業界の限界も見えてくる。HPのメリットや成功例が振興センターのアンケート調査項目の一つにできないか検討中である。取引適正化については事業者を替える際の1週間ルールができた。また国土交通省と連携し集合住宅への入居前の料金情報開示要請まで進んだ。国として諸課題に対する取組みは進めたがいずれも強制力がないため、十分な成果を得るにはしばらく時間が必要だ。

 引き続き消費者委員から以下発言があった。
 今年は集合住宅の料金問題が取り上げられ良かったと思うが、戸建て住宅にも同様の問題があると聞いている。戸建て住宅に生活設備を提供し10年程度の長期契約で囲い込むも、途中でオール電化に変える際などトラブルになる場合がある。行政には戸建て住宅にも集合住宅と同様の取組みを望みたい。(福岡県 柴富委員)。現在ガソリンは全て料金が店頭表示である。LPガス事業者も料金は店頭で分かるように表示願いたい。(鹿児島県 伊佐委員)。県内は離島が多いがLPガス事業者とは顔の見える関係で、高齢者の見守り等にも役立っている。反面、料金問題には声があがらない。消費者は法律面も含めもっと勉強し選択の権利を行使すべきだ。(長崎県 楠富委員)。ガスコンロ取替の際、事業者からガス漏れ警報器の設置の有無について聞かれたが、新しい燃焼機器がガス漏れに十分対応しており警報器の設置は見送った。他方、集合住宅、学校等大きな住居施設にはガス漏れ警報器の設置が義務付けられていると聞いており、少々矛盾を感じている。実態はどのような規制となっているか。(沖縄県 東江委員)。→ 後日事務局から回答。 事業者の規模によって料金問題への取組みも違っており料金透明化・適正化につながっていない。事業者間で連携して改善することが課題だ。事業者にはスマホを利用したHPの活用等身近なところから料金問題に取組んでいただきたい。(大分県 小野委員)。戸建て住宅では料金があまり問題化しない。料金問題には消費者が意識を高くもって、勉強しつつ取組むことが改善につながると思う。(宮崎県 神谷委員)。高齢者世帯では不測の事故が起こりかねない。警報器によって大きな事故につながらなかった経緯もあるが、地域全体で高齢者を見守っていくシステムが望ましい。料金問題は県内でも都市部と農村部では様子が違う。地域間での賃金格差もあり、料金が負担となっている消費者もある点を事業者には理解願いたい。(佐賀県 平原委員)。
 また、鹿児島県の伊佐委員から、現在ガソリンの値上がりが著しく、価格は常に上下するがLPガス料金はそれほどでもないのはなぜか、との質問があった。これに対しエネ庁橋爪企画官から次のような回答があった。LPガスと他の石油製品との料金構造がちがう。LPガスは供給のほとんどを輸入に依存するが輸入価格に加えて配送、充填等物流費や保安点検に要する費用が加わる。ガスは他の石油製品より一段高い保安点検が求められその費用もかさむ。全国のLPガス料金は一世帯あたり約8,000円/月、うちガス本体2千数百円と料金に占める割合が少ない。したがって現在LPガスの輸入価格も上がっているが家庭用小売価格の上昇分に大きく反映されない。もともとLPガス事業が人的集約産業という特殊性があり、人件費の占める割合が大きいのが特徴だ。

 続いて料金透明化・取引適正化に関連して事業者委員から次のような発言があった。
 集合住宅の料金公表要請に関してはFAX等で事業者に周知している。また県の宅建協会とも連携し、不動産業界への周知にも努めている。しかし、不動産業界の動きが鈍くうまく進んでいないのが実態だ。状況としては不動産業者がLPガス事業者より上位という力関係だと感じている。(鹿児島県 市田委員)。集合住宅の料金公表要請に関し9月に県内事業者にアンケートを実施した結果、20%の事業者が住宅管理会社に料金公表していることが判明した。ただし管理会社から先、消費者まで情報が届いているかどうかは今後確認する段階である。また、本県に限ると大型マンション等大規模住宅は県外オーナーが多く、LPガス供給も他県の事業者が多く県LPガス協会(以下「県協」という。)では料金公表の実態が把握しづらい。(佐賀県 大塚委員)。

 続いて、3年前から全国展開されている総務省行政評価局のLPガス取引適正化調査による、経済産業局と自治体、事業者の連携の必要性に関し、九州経済産業局 資源エネルギー環境部 資源・燃料課 松枝課長補佐から次のような報告があった。
 トラブル事例の多い集合住宅の料金、取引について自治体、各県協と問題点の共有及び指導方針調整のための意見交換を実施している。今年度は8月に福岡県、福岡県協との意見交換を実施し、他県への展開を検討している。また、LPガス取引に関する相談等の受付及び自治体への情報共有を実施している。所轄する20数社の立入検査は平成29年度から5年で一巡する予定であった。令和2年度まで17事業者の検査が終了し、令和3年度は5事業者を予定しているがコロナ感染下の影響で現在1事業者の検査に留まっている。

 テーマ1 LPガスの料金透明化・取引適正化議論のとりまとめとしてエネ庁橋爪企画官から次のようなコメントがあった。
 このテーマにはなかなか終わりは来ないが、消費者、事業者、行政が一同に会した場で消費者が何を期待しているかを伝えるのは良いことだと思う。行政側もこのプレッシャーを糧に今後も取組みを続けていきたい。また、消費者団体も料金問題には関心を持ちつづけていただきたい。


テーマⅡ.「LPガスの災害対応能力について」
 笹川教授からエネ庁の事前プレゼンに関する要約説明があった後、調査・広報委員会、片野委員から次のような発言があった。
 災害は全国各地で多発し、かつ多様化している。それに伴う災害対応事例も様々あり、これらの情報を広く共有できるようにして欲しい。消費者と事業者の関係は地域により形が異なるが、それを越えてLPガスの災害時の強みや活用事例、対応のノウハウ等の啓蒙活動を進めていただきたい。

 続いて事業者委員から次のような発言があった。
 東日本と比べ西日本、九州は比較的災害が少なく、そのためLPガスの災害対応設備の設置が遅れており、県協として自治体へのはたらきかけに努めているところ。(福岡県 和田委員)。県では地震、水害を経験した。地震の際はLPガスの復旧の速さにより被害者世帯から喜ばれた経験がある。他方、LPガス仕様の仮設住宅を出た被害者が建てた新しい住居がほとんどオール電化であったのはLPガス事業者としては残念だった。県協としてはテレビCMでLPガスの災害対応能力をアピールしているがなかなか新築住宅への設置につながらない。市立の中高校の教室には市長の尽力もあり、LPガス空調が導入されている。今後第一避難所となる体育館等へのLPガス空調設備の導入推進に努めたい。(熊本県 佐藤委員)。カーボンニュートラルへの動向を受けLPガス事業全体が縮小したと仮定した時、南海トラフ地震が発生したら災害復旧、減災活動が本当に大丈夫か危惧している。今後もLPガスの普及促進には努めるが、このままだと炎を使うガス体エネルギーが悪者にされないかと懸念している。他方、県協として災害時を想定した訓練は関連団体と連携して継続実施している。(大分県 菊池委員)。行政に災害バルクの設置をはたらきかけているが、首長の理解がないと前に進まないというのが実感だ。たとえ理解が得られても、設備購入の入札でイニシャルコストの安い電気にかなわない。過去、学校に導入した際は行政の予算に頼らず、10年間のランニングコストに基づきPTAと相談して導入に至った経緯がある。また設備の利用にあたっては、LPガスは災害に強いからこそ日常的に使って欲しいという願いがある。(長崎県 荒木委員)。災害バルクの導入は自治体の予算にはなかなか組み込んでもらえない。婦人会といった消費者の集まりの場で災害バルクの利点等をアピールしており、公民館等小さいところから設置拡大を図っているところである。南海トラフ等を念頭に災害対応ネットワークの構築には積極的に取組んでいる。(宮崎県 森委員)。自治体との防災協定は100%締結し、その観点から3年前からLPガスのGHP導入をはたらきかけている。しかし、空調一つでも学校の場合教育委員会、避難所は総務課といった縦割りがあり窓口が分散して進めづらい。他方、発電が可能というLPガスのメリットを、テレビCMを利用して放映している。技術系の高校でもLPガスのメリットについて教育すべきと感じている。(沖縄県 島袋委員)。 

 行政の予算、省庁における補助金に関連しエネ庁橋爪企画官から次のようなコメントがあった。省庁間では一定の役割分担があり、総務省は自治体を所管し自治体が整備する防災設備をカバーしている。厚生労働省は国立病院の防災設備の予算を持っている。経済産業省は国立以外の病院、自治体から指定される一時避難所、老人ホーム等が所管である。補助金は一般的には補助率の高い方を利用するため自治体では総務省の7割補助が利用されている場合が多い。文部科学省は防災というより空調に主眼が置かれ、電気エアコンもカバーしている。LPガス設備の導入に関しては首長とのコミュニケーションが重要だ。首長には入札での価格競争になる前に防災の観点からLPガス設備の導入をはたらきかけることである。


(3)総括コメント
 最後に笹川教授が以下のとおり議論を総括し、懇談会を締めくくった。
 今後いっそう団体間の連携が求められる。消費者、事業者、そして複数の行政団体、所管官庁間の連携の中でLPガス市場をとらえていく必要がある。事業者はこれまで消費者という観点でとらえていたものを「生活者」という目線で向き合って消費者の支持を得ていくことである。消費者、生活者あっての省庁でもありその垣根を越えて今後の施策を検討願いたい。HPの設置の推進についてはアプリの利用といった簡便な方法での対応も検討が必要だ。事業者の高齢化も問題であり、業界の再編合理化を視野に商権の譲渡や売却をスムーズに進めるスキームの検討が求められる。


(広報室/中村 雅彦)