LPGC WEB通信  Vol.57  2018.12.10発行 

【特別寄稿】
 WLPGフォーラム参加を通じて感じたこれからの日本の役割

アストモスエネルギー株式会社
国際事業本部 企画開発部 高橋 良仁


 本年10月米国ヒューストンで開催された第31回WLPGフォーラムに参加しました。過去WLPGAのメンバー国として理事会への参加はあったものの、日本の元売会社の担当者としては過去30回のフォーラムでもその参加人数は少なく、また日本、海外で開催される各国際会議の中でも本会議の注目度は相対的に低かったと感じていました。日本は1970年代から80年代にかけて世界の海上貿易をリードし、以降90年代から2000年にかけて世界最大のLPG輸入国として、安定供給と調達の多様化を主眼に、海外の供給者との関係を強化してきました。その過程では、先進国のみならず、アジア、アフリカ等新興国でLPGの普及拡大を焦点に当てた同会議の注目度は低くならざるを得なかったのかと思います。

 2000年代後半から中国、インドの国内需要、輸入が大きく増える中で、LPG消費国として量的な日本のプレゼンスは徐々に低下してきました。今や中国で日本の3倍、インドも2倍近い需要を誇るLPG大国になりました。それでもまだ我が国では中国、インドの台頭が国際貿易にどのような影響を与えるかの視点が強く、また様々な分野で高い水準を誇る日本の物流ノウハウ、システム、保安等はそのコスト構造からアジア及び新興国への移転は容易ではないと言われ続けてきました。
 過去参加してきた海上貿易に焦点をあてた国際会議の参加メンバーやフォーラムの議題と比較しながら、また上記のようなことを想起し会議初日に参加しました。

 WLPGAは従来から欧州を中心にAuto Gasの普及に力を入れてきており、その活動は特定の国での普及に一定の貢献を果たしてきたと思います。今回もAuto Gasの促進が課題に盛り込まれていましたが、鍵は「政府補助とその価格」とあくまでも政府次第と明言されており、むしろ「脱炭素化社会に向かってのLPGの挑戦」をテーマに、LPGの役割をいい意味でも、あるいは危機感の裏返しでも一歩高い位置に押し上げようとする強い意思を感じました。それは低炭素から脱炭素を加速させる欧州の動きに端を発し、分散型のLPGを輸送、舶用、ハイブリッドの各燃料、電源として、民生燃料+αの機能を如何にどれだけ多くの地域でどれだけ活用出来るかを考えていく契機となる会議でした。またLPGの分散型、環境特性、価格競争力を正面から発信していこうとの機運にもあふれていました。
 「Cooking for Life」、「LPG for Power Generation」、「Marine Engine Bunker」、
「LPG Hybrids/Bio LPG」、「Digital Transformation Of LPG Distribution」等、ニッチながらもグローバルな視点で需要創造を進めていこうとの提言です。輸送、発電、舶用燃料の主にはならずとも、LPGに優位性がある地域や分野があり、そこでの需要創造に日本のLPG会社あるいは関連する業界のノウハウ、知見を活かすことが必ずや出来るはずです。
 副産物としてのLPGはここ10年で製油所、石油随伴から天然ガス、シェールガス開発随伴の生産物へと由来を変えてきました。価格もこの20年間でエネルギーとしての競争力は飛躍的に高まりました。石化原料、産業燃料のみならず、以前は話題にも上らなかった発電燃料、舶用燃料の可能性についても従来とは比較にならないレベルで取り上げられています。

 舶用輸送分野に目を転じると、2020年のIMO舶用燃料規制強化を目前に、これから増大する輸送コストをいかに消費者含め産業界で対処していくかが喫緊の課題ながら、中期的なソリューションとしてガス体燃料LPGの可能性は十分にあると考えています。既に独MAN社が大型のLPG焚きエンジンの開発を完了し、2020年後半にもLPG焚VLGCの商用化が現実となります。陸上の小型エンジン相当を活用してレジャーボートに搭載する先例も欧州では始まっています。これからは大型エンジンの他船種への展開、中小型船への4サイクルエンジンの開発とハード面の課題は見えてきています。今回の会議では具体的な解決策の提示には至らなかったものの、LPG燃料供給の仕組みと安全性の検証・確立、商用ベースで取組む民間会社(バンカー会社)との連携が必要になり、この部分ではLNGに対するLPGの競争力が他地域と比較して相対的に高いアジア地域で推進出来る可能性があり、その中でも日本が貢献出来る、あるいは主導出来る分野があるのだと思います。

 WLPGAメンバーは成熟市場でいかにLPGの需要減に歯止めをかけるか、脱炭素社会でLPGの永続性をいかに維持できるか、新たな分野でいかに需要創造の可能性を追求できるかに視点をおいています。中国、インド、東南アジアでもIOTの活用による物流管理、合理化が進む可能性がありますが、民生需要(家庭用調理需要)の増大は我々の予想を超える勢いで増加しています。大国中国、インド、インドネシア、東南アジアの参加者は少なかった一方、アフリカ、南アジア新興国がLPGの物流を立ち上げる過程で先進国の仕組みを参考に、いかにシステムを導入するかに関心を示しているのとは対照的でした。
 日本は消費国、輸入国としてのプレゼンスを活かしながら、調達から物流、販売、保安までのIntegrateされたシステムで欧米先進国とアジア、アフリカ、新興国の間でその機能をブリッジ出来る力があるはずです。長い歴史を誇る日本のLPG業界がLPG消費国、輸入国としてのみならず、LPG先進国として動いていくことで、WLPGAの中での存在感も増していくことが出来るはずです。
 言葉や人脈の壁があるのかもしれませんが、WLPGAは日本からの発信力に期待しています。もちろん日本も1990年代に複数の会社が海外進出を実現し、現在でも海外事業に参画されている会社が存在します。LPGが貢献できる土壌が従来以上に整備されつつある今こそ、世界に発揮したプレゼンスを取り戻し、日本のみならずグローバルなLPG産業の発展に寄与できる機運を高めていける好機と考えます。
 来年WLPGフォーラムはアムステルダム、翌年以降はドバイ、ニューデリーとまたアジアに戻ってきます。初心に帰り、世界の知見、英知を貪欲に取りくみ、日本以外での事業にも目を向けLPG業界の真のグローバル化に貢献していきたいと強く感じ、考える会議となりました。

【会場内の様子】



以上