LPGC WEB通信  Vol.48  2018.03.12発行 

【特別寄稿】
 LPガス料金透明化・取引適正化問題を考える

一般社団法人日本ガス協会
業務部 経営支援室担当理事
角田 憲司
1.はじめに
 およそ2年前、経済産業省の「液化石油ガス流通WG」において審議・報告された「LPガ
ス料金透明化・取引適正化問題」は、消費者団体の熱意や経済産業省の強力な指導により「液
石法施行規則」の一部改正や「液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針(ガイドライ
ン)」 の制定・施行・改訂に至り、実体のある取り組みとなってきた。また並行して行われた
「料金公表状況調査」も、LPガス販売事業者に料金透明化を促す効果を発揮するなど、長年
の業界課題の解決に向けて着実に前進している。
 しかし、その一方で懸念点がないわけでもない。
 筆者はこれまで、都市ガスの業界団体に身を置きながらも、当事者意識を持ってこの問題を
注視してきた。大半の都市ガス事業者は自社もしくは関係会社の形でLPガス事業を営んでお
り、「他山の石」では済まされないからである。またガスシステム改革による都市ガス業界変
革を経験したことにより、「LPガスシステム改革」とも言える同問題に関してLPガス業界
関係者とは違った視点で捉えられることもある。


2.問題解決に向けた基本認識
  ~中途半端な解決はLPガスが選ばれ続ける条件にならない~
 我が国ではこれまで種々の業種で規制緩和・自由化が進められてきたが、共通しているのは
以下の2点だと言えよう。
 (2)の新たな市場ルールとは、”きれいごとルール”とでも呼ぶべき、業界の特殊性や例外を
許さない“万人向けの高潔なルール”である。
 エネルギー分野においても、電力・都市ガスの小売自由化に伴いエネルギー事業運営の
ルールが“きれいごとルール”に変わったが、そのルールは先行して自由化されているLPガス
ガス事業にも適用されるべきと考えられているところに、この問題の本質が存在する。
 とりわけ消費者は、個々の業界事情に係らず「電力・都市ガス・LPガス 三つ揃えの自由化
制度」、つまり、共通する“きれいごとルール”の適用を求めているのである。


 ゆえに、求められる“きれいごとルール”に前向きになじむことが、LPガスが選ばれ続ける
ための必須条件であり、中途半端な問題の解決では生活エネルギーとしてのガスの矜持は保て
ない。LPガス業界を挙げて、当事者意識を持って(=“自分事”として)、不退転の姿勢で、
料金透明化・取引適正化問題の解決に臨む必要があるのではないか。


3.料金透明化問題の本質

 料金透明化は、今般の改革の根幹課題である。本来知らされるべき料金情報が消費者(ユー
ザー)に知らされていないために料金に係る苦情やクレームが絶えず、また料金高止まりの温
床になっていることから、少なくとも標準的な料金メニューと標準的な料金水準(平均的な使
用量に応じた月額料金例)はHP等で開示するとともに、料金に係る諸条件を契約者に14条
書面で適切に明示するだけなく、説明もしようというものである。
 したがって、求められている料金透明化とは「料金の見える化」であり、料金水準の是非
(高低)や料金を構成する原価の妥当性についての説明を求められているものではない。
 ただし、標準的な料金メニューの実体性を担保する観点から、ガイドラインの制定時(平成
29年2月22日)には「料金体系を集約するまでの間は、平均的な使用量に応じた月額料金
等を公表することでも可とするが、 早急(原則1年以内)に標準的な料金メニュー等を公表
することが必要」とされた(施行1年後の平成30年2月22日のガイドライン改訂にて削
除)。
 このガイドライン要請が意味することは、既にユーザーとなっている消費者にとって“虚偽
の”標準的な料金メニューとならないよう、新規契約分も既存契約分も(同じ需要群であれば)
標準的な料金メニューに集約しなさいということである。
 逆に言えば、この料金集約という行為がなければ、標準的な料金メニューを公表させたとし
ても、すでにLPガスの契約者となっている消費者に対する真の透明化にはつながらない。
 この点、都市ガスの料金は違う。  
 今般のガスシステム改革で、規制料金であった一般料金(旧供給約款料金)は大半が自由料
金化されたが、元々、監督官庁による総括原価査定を受けた認可料金であり、原価説明度が高
ことに加え、自由化後も(小売料金査定はなくとも)、引き続き監督官庁(電力・ガス取引
等監視委員会)による市場監視を受ける。ゆえに料金改定(値上げも値下げも)したとして
も、その要因(原価変動)をきちんと説明できるし、説明するだろう。また自由化前の選択約
約款料金も、自由料金とはいえ実体的には供給約款の総括原価から派生した裏付けを持った料 
持った料金メニューであり、原価説明度は高い。
 一方、LPガス料金は電気料金や都市ガス料金のように公的規制下に置かれたことはない。
したがって電気料金や都市ガス料金に比べて、料金に関するアカウンタビリティ(説明責任)
感度は低く、なおかつ(規制者不在ゆえ)事業者が自主的に感度を高めていく必要がある。

 ただし、アカウンタビリティ感度を向上させる作業は決して不可能なものではなく、石油流
通WGメンバーだった(株)カナエルの関口社長が第1回のWG(平成28年2月5日)にて
示されたように、時間を要するものの、どの事業者でも完遂できるものである。できるだけ多
くのLPガス販売事業者がスピーディに完遂し、消費者からの真のグッドウィルを得られるよ
うになることを願っている。

 このように考えてくると、料金の透明性には「料金メニューの見える化」「料金メニューの
厳格適用」「料金原価のアカウンタビリティ」
という3つの側面があることがわかる。
 ちなみに、ガイドラインは先月(平成30年2月22日)改訂され、「標準的な料金メ
ニュー等の公表」に関して以下の内容が付加された(下線部が新規箇所)。
 ガイドラインは、市場の実態(戸建と集合で異なる標準的な料金メニューを持つ事業者の存
在)に鑑みて、それぞれの標準的な料金メニューの公表を求め、かつ、「戸建と集合で従量料
金の単価が異なる場合の差異説明」の必要性を求めている。この差異説明とは、「料金原価の
アカウンタビリティ」に他ならない。


【 料金の透明性(広義)とは 】
 

 標準的な料金メニューの公表あたりで逡巡することなく、より多くの事業者が広義の料金透
明性を果たされることを強く期待するものである。 



4.賃貸集合問題の本質
 今般の改革のもう一つの目玉が、賃貸集合住宅における料金透明化問題である。起点となっ
た石油流通WGでは「賃貸型集合住宅の入居者に対する賃貸借契約時における料金の透明化
の促進」という切り口で課題整理し、対策の方向性を示すとともに(下表)、これに関連して
液石法の施行規則ならびに運用・解釈通達の一部改正がされ、また付随して作成された「液石
法省令改正等の一部改正、取引適正化ガイドラインに係るQ&A」では具体的な適用のあり方
が示された。
 このルールは施行日(平成29年6月1日)以降の入居者を適用対象としている(=施行前
の入居者への遡及適用は求めない)ため、賃貸集合住宅の入居者が支払うLPガス料金の不透
明さを払拭するには一定の時間が必要となるものの、制度的にかなり前進したと言えよう。
 また前述した料金の透明性に関する3つの側面での取組みが進めば、「(集約化された)集
合住宅向けの標準料金メニューでの基本料金+従量料金」と、賃貸型集合住宅等の建物に付随
する設備等の償却費用を当該集合住宅の入居者に特定負担させて回収している場合は「(個別
物件ごとに異なる)特定負担設備料金」3本立てが入居者に示されることになるはずであ
る。
 では市場では現実に、目論まれた方向で透明化が進むのだろうか?
 方向どおりならば、LPガス販売事業者は本来賃貸住宅オーナーや管理会社、不動産会社、
建設会社等(以下、オーナー・管理会社等)が本来負担して家賃にて回収すべき設備費用が新
たな入居者のガス代金に上乗せされていることを14条書面に記載して知らしめることにな
る。これを怠ればLPガス販売事業者が法令違反に問われるからである。だがオーナー・管理
会社等からすれば、これは知らしめてもらいたくない「不都合な真実」である。かといっ
て、LPガス販売事業者としても法令違反をするわけにはいかない。ここに両者の確執が生じ
る。
 ところで、そもそもオーナー・管理会社等はどんな対策を講じられるのだろうか。
 第1は法令改正を機に、LPガス事業者に設備費用負担を求めるのをやめること。第2は法
令改正の趣旨どおり、LPガス販売事業者が設備費用をガス代金に上乗せされていることを入
居者に知らしめることを容認すること。そして第3はLPガス事業者に設備費用負担を求める
ものの、その(特定された)費用を入居者のガス代金に上乗せすることを認めないこと(=結
局、LPガス販売事業者は当該費用を会社全体で負担することになる)。
 いずれのケースも特定の設備費用を特定の入居者(消費者)に負担(特定負担)させている
わけではないので、14条書面に記載する必要はない(※)。
※「液石法省令改正等の一部改正、取引適正化ガイドラインに係るQ&A」Q3-(2)-3参照

 いずれの方法によっても、「賃貸型集合住宅の入居者に対する賃貸借契約時における料金の
透明化の促進」という点は進展する。
 一方で、この問題の根底にある悪しき商慣行(自社が供給権を得るためにオーナー・管理会
社等からの設備費用負担要求を受け入れること)は改善されないどころか、実質上、料金の不
透明性や高止まりの一因であるという「そしり」を免れることになる。かくして、皮肉にも
「受益者負担原則に立脚するエネルギー料金の世界に設備費用という異物が混入する事態」
市民権を得てしまう。
 しかも、この「異物混入」は今後、拡大していく恐れがある。人口減少に伴う賃貸集合住宅
の供給過剰・入居率低下が賃貸集合住宅間競争を激化させ、生き残りのために設備補填してく
れるLPガス販売事業者への要求がエスカレートしてくることは想像に難くない。そうなれ
ば、過大な要求を受け入れられなくなる事業者も増え、賃貸集合市場は資本力のある事業者の
寡占化が進むかもしれない。 
 また、(どのようなケースであれ)業界全体として見た場合、異物混入量が増えるほどLP
ガス料金水準が高止まりする要因になり、ひいては消費者のガス離れを促進させる。
 さらに、この余波は都市ガス業界にも及ぶ恐れがある。すなわち「都市ガスも自由料金化さ
れたのだから」とオーナー・管理会社等から設備費用負担を迫られ、拒否すればLPガスに燃
料転換される可能性が高まる。

 「異物混入」という商慣行に関して、LPガス販売事業者には「受け入れなければ選ばれな
い」という被害者的側面があるのも事実である。ゆえにLPガス業界の自浄作用だけで混入除
去を図るのは難しく、北海道の「LPガス問題を考える会」が指摘しているように、「解決に
は、行政・業界と業者・消費者と消費者団体それぞれの関わり方と役割の総合的な検討が必
要」
である。
 このフォーメーションをどう作って根本的な解決を図るか、あるいはこのまま放置するの
か。LPガス業界は今、選択の岐路に立たされているのではなかろうか。



5.おわりに
 筆者は昨年10月に開催された「LPGC講演会」のパネルディスカッションにパネラーと
して参加した。その時、同じパネラーだった(株)カナエルの関口社長が以下のような趣旨の
発言をされた。
 「最近、当社がLPガス供給している賃貸アパート数棟が他社に切り替えられた。管理会社
(オーナー)からの設備費用負担(誰が聞いても驚くべき過大な要求内容だった)を断ったか
らである。当社はいち早く料金の透明化に取り組んできており、これを受け入れることなどで
きない。忸怩たる思いである。」
 本改革の出発点である「石油流通WG」のメンバーとして、あるべき料金透明化・取引適正
化を示してくれた関口社長のご発言ゆえに、強い衝撃を受けた。
 冒頭に書いたとおり、我々、エネルギー事業者・業界に求められているのは前向きな意味で
の“きれいごとルール”の遵守である。ちなみに、本年2月に改訂されたガイドラインには、以
下の一文が追加されている。
 LPガスが「正直者が馬鹿を見るようなルールがはびこる市場」にならないことを願ってや
まない。