LPGC WEB通信 Vol.35 2017.2.10発行
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【特別寄稿】 エネルギー自由化はLPガス業界にどのような影響をもたらすか |
一般社団法人日本ガス協会 業務部 経営支援室担当理事 角田 憲司 氏 |
1.はじめに 昨年4月の電力小売全面自由化に続き、本年4月から都市ガス小売も全面自由化され、こ れにより全ての生活系エネルギーの小売が自由化されることになった。 果たしてこの2つの自由化はLPガス業界のどのような影響をもたらすのか、考察してみ る。 2.全面自由化とは何か? 最初に今般の自由化とはどのようなものか、整理してみる。 (1) 小売分野の全面自由化である 電力・都市ガスともに(家庭用を含む)小口部門の規制がなくなり、小売できる分野が 全市場になったので、「小売全面自由化」と呼ばれる。「全面」とは小売分野にかかる言 葉であり、「市場で何をしても自由」という「完全自由化」を意味するものではない。 (2) 自由化で拡がるのは「消費者の小売事業者選択の自由」と「新規小売事業者の 参入の自由」である 下図のとおり、2つの自由を需要家利益の増進につなげることが今般の全面自由化の目 的である。 |
(3) 再規制(リ・レギュレーション)である 事業者の自由な事業活動を保障するものではなく、新たに作られる「競争を公平にする ための詳細なルール」に基づく事業活動になる。 つまり「再規制(リ・レギュレーショ ン)」である。 (4) 「小売だけスイッチ」というパーシャルな自由化である |
エネルギースイッチには上表のような3つの類型があり、今般の自由化は「小売だけス イッチ」に当たる。 競争の土俵として既存の電力・ガス事業者が持つ 「エネルギー供給インフラ(送配電 網、導管網)」 が活用されるので、小売はスイッチされてもインフラの使用料(託送料金、 ガスは一部保安費用も)は入る。 「小売だけスイッチ」は、一旦、スイッチされてもとり返すことは比較的容易であるが、 スイッチ合戦はどこまでも続き、顧客獲得の流動性は高い。 また、(他のスイッチに比べて)「小売だけスイッチ」では、消費者は「事前のスイッ チングコスト=設備投資コスト」をかけないでメリット(料金等)が享受できる。 |
(5) パーシャルである分、新規参入者が獲得できる利得は大きくない 新規参入者がコントロールできるのは、「託送料金以外」の原料費や営業費、利益等に 限られる。 また、スイッチングシステムの構築等、本格的に参入するには先行投資も必要となる。 その結果、電力・都市ガスとも、既存事業者の料金を大きく下回る価格メリットが作り にくい。 |
3.LPガス業界への影響 (1)直接的影響 ①2つの全面自由化をきっかけとした、電力・都市ガス事業者によるLPガス業界へ の直接的な侵攻はない 当り前ではあるが、従前の競争関係に基づく侵攻はあっても、それは全面自由化がもた らすものではない。 ただし、自由化競争による既存顧客のロストを補うために、オール電化や都市ガスへの 切り替えが促進されることはありうる。 ②LPガス業界から電力・都市ガスに小売参入できるチャンスが生まれる LPガス業界からの電力小売参入はすでに多数の事例が出ている。ただし実態を見ると、 1)電力小売参入は、地域によってかなりのばらつきがある 大都市圏ではLPガスからの参入が多数見られるが、地方圏ではそれほどでもない。 これは同業者間でのLPガス・スイッチ競争の強弱と密接な関係がある。 スイッチ競争が激しい地域では、LPガス顧客のスイッチのために同業他社が電力小 売を武器として活用したら、何らかの防衛策をとらないと既存顧客を失うリスクが高ま るとの思いから、参入が活発化している。 スイッチ競争が激しくない(ない)地域では、電力小売による既存顧客防衛の必要性 が薄い(ない)ため、概して不活発である。 2)電力小売参入は、必ずしも全て成功しているわけではない 太陽光発電等の自前電源を持ち、発電から小売までフルセットで行っているLPガス 事業者や、取り次ぎ・販売代理・媒介等であっても、もともと顧客営業力のあるLPガ ス事業者には成功例が見られる。 一方、自社顧客防衛のためだけに電力小売事業者の傘下に入って営業している事業者 には思ったほど成果が出ていない事例が見られる。これは、当初想定していたような 「電力小売を武器に他社LPガスに自社顧客をスイッチされる脅威」が実際にはそれほ どでもないことで、手間をかけて電力提案するモチベーションが下がっていることに起 因していると推測される。 ※「なぜ、電力小売を武器に他社LPガスをスイッチしていくという戦略が不活発な のか」は、今後の競争戦略を考える上で興味深いテーマであり、分析してみる価値 がある(今回は省略)。 3)LPガス業界からの都市ガス小売参入はこれからの話となるが、電力と都市ガス の財の相違や市場の相違等により、参入障壁は電力より高いと思われる 現時点で考えられるLPガス業界からの参入方法は以下のとおり。 A.天然ガスを持つ電力会社等から卸供給を受け、ガス小売事業者登録をして参入 (ワンタッチ供給含む) B.天然ガスを持つ電力会社等の販売や保安のパートナーとして参入(自らガス小売 登録はしない) いずれにしても、天然ガスを保有する上流事業者の存在が必須である。 また、既存都市ガス事業者の託送受入体制もスタート時は十分整備されているわけでな いため、参入時期を見極めることも必要となる。 (2)間接的影響 ①電力・都市ガス間での競争活性化に伴う料金低減やサービス拡充により、LPガス事業 者の競争力が相対的に低下する恐れがある 電力と都市ガスの相互参入が起こる地域では、双方が料金値下げやセット割引、付帯サー ビス強化を行う可能性が高い(典型は関西電力VS大阪ガス)。 また小売の新規参入が起こる地域でも、既存事業者は料金低減・サービス拡充の方向に向 かう。 当面新規参入が起こらない都市ガス地域でも、自由化された料金は厳しく市場監視され、 不合理な値上げはできない。 こうした傾向に対し何も方策をとらないと、同地域にあるLPガス事業者の料金・サービ スの競争力は相対的に低下することになる。 |
②電力・都市ガスでの規律を保った自由化競争の進展により、「LPガス取引/料金の不透 明性問題」がよりクローズアップされ、LPガスの「生活エネルギーとしての矜持」が 失われていく ガスシステム改革議論の過程で消費者委員は再三にわたって、(場違いとも言える)LP ガスの料金問題を取り上げた。 それは、自由化される都市ガス料金や商慣行がLPガスの ように不透明にならないための牽制であったとともに、3つのエネルギーを横並びで見た時 にLPガス料金だけが健全ではないという警鐘でもあった。 かくして今般の自由化においては、電力・都市ガスともに厳格な行為規制(ガイドライン 規制)が課せられるため、「規律を保った自由化競争」が行われるが、それとは裏腹に、こ うした形で自由化が進展していくことに触発されて(既に自由化されている)LPガスにお ける「取引/料金の不透明性」がさらに問題視され、きちんとした決着を図らないとLPガ スの「生活エネルギーとしての矜持」が失われていくことになる。 そういう中にあって、消費者団体からの強い是正要請を受け、国(石油流通課)は全国の 全LPガス販売事業者を対象にしたLPガス料金公表の実態調査を行うとともに、「液石法 施行規則」や「同施行規則の運用・解釈通達」の一部改正(4月1日施行予定)、さらには 「液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針」を制定・施行(2月中)することにな った。 これらの対策がどの程度の改善効果を生むのか注視する必要があるものの、LPガス業界 自身の自浄作用が働かなければ、行政によるさらなる強制力を伴った指導へと傾斜していく 可能性は高いと思われる。 すなわち、問われているのは「LPガスエネルギーの矜持」ではなく、「LPガス業界の 矜持」である。 4.都市ガス小売とLPガス小売では、求められる規律のレベルが異なる 今般のシステム改革が電力・都市ガスセットで行われたことや、双方とも長く規制下に置か れていたことにより、自由化された都市ガス小売のあり方は電力のそれと平仄を合わせた。 その結果、同じガス体エネルギーであっても、被規制の経験がないLPガス小売とは自由化 されても料金や商慣行のあり方等についてレベルが異なる形となった。 【都市ガスに求められる料金規制】 (1) 経過措置料金規制 小口需要家保護の観点から、既存の一般ガス事業者における「競争が不十分な地域」には規 制料金メニューの提供を経過措置として義務付ける。 ☞「経過措置料金規制に係る指定基準」に沿って審査された結果、12事業者が規制対象と なり、自由化後も解除基準に該当するまで規制料金(現行の供給約款料金)を持つことに なった。 ☞経過措置料金規制がかからない事業者についても、「家庭用標準小売料金」は3年間事後 監視され、合理的でない小売料金の値上げを行ったと判断される場合には事後監視がさら に3年間延長される。 ☞小売料金の不当な値上げにより「ガスの使用者の利益の保護」に支障が生じ、又は生ずる おそれがあると認められる場合には、経済産業大臣が業務改善命令を発動できる。 ☞経過措置規制料金対象事業者(12)の規制が解除された場合でも、「家庭用標準小売料金」 は3年間事後監視される。 |
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(2) 標準小売料金のリバランス 都市ガスの標準小売料金(現供給約款)のA区分基本料金は、永らく値上げ抑制措置がとら れてきたことから概してどの事業者も低水準であり、少量需要家においては固定費が未回収と なっている。 今般、自由料金になることで制度的には事業者の責任において基本料金を改定(値上げ)す ることが可能になったが、ガスシステム改革議論の過程では、「基本料金是正の必要性は認め るが、消費者保護の観点から、「リバランス(※)ならば許容」といった制約がつけられた。 ※リバランスとは、全需要家から回収する料金総額を変えないで料金単価を見直すこと。 つまり、どこかの需要群が上がればどこかの需要群が下がり、トータルの回収額は不変。 また、リバランスするにせよ、それが本当に適正なリバランスなのかを外部に証明するため には実質的に何がしかのクレジット(監督官庁等)が必要になるなど、自由度は引き続き制約 される。 (3) ガスの小売営業に関する指針(ガイドライン)による規制 電力同様、都市ガスの小売営業にも、法令による規制の他、経済産業省が定めたガイドライ ンによる規制が適用される。 ガイドラインには2つの概念の行為がある。 <望ましい行為> 推奨される行為だが、これを行わないことによるペナルティはない <問題となる行為> この行為を行うと、業務改善命令が発動される場合がある 需要家への情報提供や営業・契約の適正化に関する内容が中心であり、その点では「LPガ ス販売指針」と似ているが、前者は法定ルール、後者は自主ルールであり、強制力が異なる。 では「LPガス取引/料金の不透明性問題」への対策として昨年5月にまとめられた「液化石 油ガス流通WG 報告書」にて指摘された問題に関係する内容は、都市ガスのガイドラインで はどのように規定されているか。 下表のとおり、まとめてみた。 |
上表のとおり、ガイドラインが「自主か法定か」に係らず、都市ガスのそれではきめ細かく 規定されていることがわかる。 加えて、規制措置としてはこのように決着したが、消費者からは、以下のようにより厳しい 要望がされており、自由化後に何か問題が発生すると強化される可能性もある。 ①ガイドラインにおいて、「標準メニューの公表をしないこと」を“問題となる行為”にする こと(今は“公表が望ましい行為”) ②経過措置料金規制がかからない事業者への監視を強化すること ③料金値上げ時には一定期間(たとえば2ヶ月前)をとって周知すること 5.おわりに 電力小売が全面自由化されてまもなく1年が経つが、思ったほど自由化が進んでいないとい うのが世の中の見方である。 続く都市ガスも、新規参入事業者が限られることから電力よりも不活発になると予想されて おり、LPガス業界からの参入にも期待がかかるところである。 都市ガス業界に身を置く者としてしみじみ感じるのは、今般の全面自由化が真に意味するこ とは、長らく供給区域を独占し、小口料金も総括原価主義に守られてきたことが終焉する、と いうことである。実際に小売競争が起きなくても、総括原価主義が染みついた料金や事業運営 のあり方をいかに迅速に見直すかが、全面自由化後の都市ガス事業者の浮沈のカギとなる。 加えて、(今回は取り上げなかったが)日本のエネルギー事業は「競争活性化、エネルギー 需要減、地域の地盤沈下」という3つのアゲンスト・ウィンドが本格的に強まる中で生き残ら ねばならない。 その意味では、都市ガス事業がこの時期に総括原価主義の庇護を失うことは、将来対策の必 要性を覚醒させる上でタイムリーだったともいえる。 ひるがえって、LPガス業界はどうだろうか。 ここまで見たように、LPガス業界として解決しなければならない問題を横に置いたまま、 電力や都市ガスへの参入を目指すことは、とりわけ消費者から見れば「顧客本位」ならぬ「事 業者本位」と映り、賛同は得られない可能性を秘める。 LPガス業界としての不退転な構造 改革が望まれる。 加えて、業界に向けて吹く3つのアゲンスト・ウィンドは電力や都市ガスと同じである。 業界特性として、「いざとなれば廃業(身売り)すればよい」という独特の市場退出手段を持 つだけに、腰を据えた取り組みをする事業者としない事業者のばらつきも出る。業界としてど のような方向に向かうべきか、真剣に考えることが必要ではないだろうか。 |
以上 |