LPGC WEB通信 Vol.29 2016.08.10発行
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10年余に亘る近畿地方液化石油ガス懇談会の軌跡が示す消費者目線の変容 |
甲南大学法科大学院教授 土佐和生 氏 |
はじめに 縁あって、筆者は、平成16年度から昨年度まで毎年ずっと、さしたる学識など持ち合わせ ないが、近畿地方液化石油ガス懇談会に学識委員として陪席させていただいてきた。この懇 談会は、平成15年度以降10年余に亘って、液化石油ガスの流通や取引等の諸問題について 液化石油ガス販売事業者(以下「事業者」)と一般消費者等(以下「消費者」)との信頼関 係をより一層醸成することを目的として (一財)エルピーガス振興センターに対する経済産業 省の委託事業「石油製品需給適正化調査(石油ガス流通合理化調査)」の一部として行われ てきた。 日本語で十年一昔というし、英語でもdecadeは1つの年代単位である。あれから10年余、 いったい液化石油ガス販売事業(液石法2条3項。以下「LPガス販売事業」)では何が変わ り、何が変わらないままなのか。そして、それを踏まえてこの先10年間をどのように展望で きるのであろうか。懇談会の場では、取引適正化のほか、保安規制と事故事例、高齢者等の 見守り、防災協定、実際の被災時のLPガスの有効性等について側聞させていただく機会に恵 まれ、筆者にとって個々に勉強になる消費者や事業者からのお話も多数あった。しかし、本 稿では、アンソロジーとして幾つかの印象的エピソードを回顧することはせず、もっぱら取 引適正化に焦点を当て、この10年余の時代の流れを貫いて、LPガス販売事業をめぐって事 業者、消費者および経済産業省資源エネルギー庁と府県(以下、別段の断りのない限り「行 政」)のそれぞれが向き合うべき課題とは何だったのか、そこから汲み取るべき将来に向け た教訓は何か等について、懇談会での陪席経験を通じて筆者の思うところ、感じたままを、 知的な意味で誠実に、何処にも臆することなく率直に記すことにしたい。筆者には、毎回の 懇談会で、とりわけ取引適正化に強い焦燥感があった。LPガス販売事業には来し方を回顧す る余裕など残されておらず、いまこそそのあり方を根本から見直し、新たな競争環境の変化 に迅速に対応して積極果敢に挑戦しなければならないと思う。文中、以下、各所に対して辛 口に過ぎるところがあるかも知れぬが、それもLPガス販売事業に対する筆者なりの期待と激 励の現れとご理解いただきひらにご寛恕を請うとともに、真意をお汲み取りいただけるよう お願い申し上げる。 |
1.LPガス販売事業における消費者の位置づけ まず何よりも、はじめて平成16年度に懇談会に陪席させていただいてから筆者に驚きであ ったのは、事業者委員が、実際にLPガスを消費している消費者を取引の相手方として重視し ておられるように必ずしも見えないことであった。初回の懇談会の平成15年度と言えば、既 に、平成8年改正液石法に基づき、交付される14条書面の必要的記載事項に、ガスの価格の 算定方法・算定の基礎となる項目及びその内容の説明、供給設備及び消費設備の所有関係、 供給設備及び消費設備の設置・変更・修繕及び撤去に要する費用の負担方法等は追加されて おり、かつ、平成13年改正液石法施行規則に基づき、無断撤去の禁止のルール化(いわゆる 1週間ルール)は明確化されていたはずである。それにもかかわらず、筆者の印象によれば、 例えば、初期には、14条書面の不交付や無償配管の買取請求およびその不撤去・無断撤去に 係る消費者からの苦情は圧倒的多数に上っていた。今に至るも、それらの苦情を根絶せしめ るには到底至っていない。その責めを事業者だけに負わせるのは酷であるが、他面、この10 年余の間、この悪弊を本気で根絶するためにどれだけの事業者や各府県LPガス協会が腹をく くって真剣に取り組んできたか。しばしば巷間言われるように、本当にそれは一部の悪徳事 業者だけのイレギュラーな病理現象に過ぎないのか。より深刻なのは、かりにこの10年余の 間、事業者や各府県LPガス協会がこの悪弊の除去に真剣に取り組んできたとすれば、この悪 弊はそれでもなお是正し切れないほど、LPガス販売事業においてどのように構造化されてお り、どこに引き抜き難い形でその根を張っているのか。また、別例として、ガス価格の高止 まりや他エネルギーとの対比での相対的な高額さ等についても、輸入時の原料価格のボラテ ィリティや不測のイベント要因を挙げ、または自由料金であることを強調するのみで消費者 の納得を得ようとする事業者委員の姿勢を、筆者はずっと見てきた。法令上LPガスが自由料 金であることは論を待たないが、だからといって、甚だしきは、価格改定時に消費者にその 旨伝達せず、または価格改定につき積極的に理解を求めようという営業態度が認められない というのでは、一般の流通業と比べるとき、LPガス販売事業は地縁・血縁等をも交えた固い 岩盤のような取引固定性にあぐらをかいている業界だと言われても仕方あるまい。さらに、 従来懇談会で言及されたことはないが、筆者には、廃業等に伴う消費者に対する販売権たる 「商権」の事業者間売買の悪弊なども、この事業に構造的に深く根付いてしまっているこう した消費者軽視の姿勢やマインドセットと無縁に思われない。顕在・潜在の競争に晒される 一般産業でのM&Aと対比するとき、消費者にモノを販売する立場や営業の地理的範囲それ自 体をあたかも一個の財産的価値ある対象に扱ってしまい、売手と買手の関係性が主客転倒す る倒錯に陥っているという意味で、LPガス販売事業でのこの慣行の特異性は際立っているよ うに見える。 是正するに10年余に亘る期間は短いとは言えない。なぜこうした悪弊が、LPガス販売事業 にだけ特有に観察され続けるのか。私見では、その根本的な理由として、事業者にとって、 畢竟、消費者とは自らの商権範囲内において「物言わぬ逃げない買手(売手間で競い合って 自社を選択していただく努力を懸命に払うべき相手方という意味での買手ではなく、予め定 まっているガスの物理的な供給先、検針や請求に係る諸実務の名宛人および代金回収先とい う意味での客体)」に過ぎず、本来、ガスの価格と付加サービスの品質等を通じて売手間で 争奪し合うべき交渉や取引の相手方として、しかるべく認知されていないという基本構造が ずっと持ち越されてきたのではないか。そして、この売手と買手をめぐる歪んだ基本構造こ そがあらゆる悪弊の構造的な根をなし、それらを養い、繁茂させ続ける培養土になっている と考えている。地域や競争環境に基づく違いは多少あろうが、実態として競争に晒されない 事業者の場合、その営業目線の先にあるのは、実際にLPガスを消費している消費者では必ず しもなく、実のところ住宅等の建築業者やその背後に控えるデベロッパーもしくは賃貸住宅 等のオーナーまたは不動産業者等ではないか(競争に晒されない事業者にとっては、これら の者こそ真の意味での「買手」と認知され、実質的な意味で交渉や取引の相手方になってい る1)と、筆者は疑っている。 |
もちろん、10年余の経過のなか、事業者のこうした消費者軽視の姿勢にもなにがしか変化 は認められる。特に3.11東日本大震災以降、電気・ガスの小売全面自由を目指すエネルギー ・システム改革が政府・国会において具体的に進展していくにつれて、上記の悪弊を放置し たままにLPガス販売事業に明るい先行きが展望できるはずもなく、懇談会においても次第に 実際にLPガスを消費している消費者に正しく向き合おうとする機運が生まれつつあるように 感じられる。しかしながら、筆者から見て、懇談会の経験から導き出せる最も重要なポイン トは、従来、LPガス販売事業のなかで事業者の発意に期待して、いかに事業者に液石法上の 義務履行等を求めたところで暖簾に腕押しに過ぎず、本当にこの基本構造を切り崩すには、 LPガス販売事業にその外部から、業際の垣根を実質的に無効化して、制度改革を通じて間接 的ながらもエネルギー間選択競争を具体的に持ち込むこと(以下「制度改革に基づく競争」 による以外にはなかったという点である2 。 |
もとより、こう言うからといって、筆者が特定の事業者や各府県LPガス協会だけを悪者に 仕立て上げたいわけでなく、またそのようにさえすれば上記の悪弊は自ずと改善すると素朴 に考える者でもない。法令上そのような縦割りの業際を定め、取引適正化を実現する真の駆 動力たる制度改革に基づく競争の促進・強化措置を講じないままにきた立法府・行政・学術 コミュニティ等にも、それを意図しなかったとしても上記の「物言わぬ逃げない買手」とそ れを搾取する事業者という基本構造を支え続けてきたという意味で、それぞれ応分の結果責 任がないとはいえない。その意味で、懇談会に関わってきた我々全員が、LPガス販売事業に おける消費者の位置づけについてこの10年余の懇談会の経験から導くべき教訓は、「液化石 油ガスの取引を適正にし、もつて公共の福祉を増進する(液石法1条)」ためには、人為に 依らずに上記の歪んだ基本構造を打破する力をもつ制度改革に基づく競争の意義や役割の大 きさを改めて認識し直すことであろう3 。 |
1 事業者とこれらの者との間の取引において、例えば建築業者等が事業者に対し無償配管を強要すること、 事業者が建築業者等に対し住宅入居者の紹介につき手数料を支払うこと等に独禁法上の問題性があること は、つとに指摘されてきた(公取委「LPガス販売業における取引慣行等に関する実態調査報告書(平成 11年6月)」)。そして、結局、無償配管の費用も紹介手数料もガス料金に上乗せされて消費者が負担す ることになる。実は、このように消費者と事業者間の取引適正化問題は、事業者とこれらの者との間の取 引適正化とも連動しており、この意味で、液石法・独禁法等を駆使しつつ、この三面に亘る取引適正化の 全体構図について最適解を導くことが重要である。 2 このことは、事業者のかかる消費者重視の姿勢への転換が、総合資源エネルギー調査会・資源燃料分科会 報告書(平成27年7⽉)のとりまとめや、この間の同調査会・基本政策分科会・ガスシステム改⾰⼩委員 会における委員間のやりとり等、つまり事業を横断する、または他事業との間の小売取引の均衡という視 点から強力に後押しされてきたという事情を一瞥するならば、容易に確認される。 3 なお、筆者は、万一将来的にその当の制度改革に基づく競争がLPG販売事業にサービスステーション(SS) 過疎地対策に類似する状況を生むならば、国・ガス元売り・販売事業者等が一体となって適切な対策を講 じる必要が生じるであろうことは否定しない。 |
2.エネルギー選択競争の到来と消費者および消費者団体の役割 懇談会には消費者委員も参画されてきた。それぞれの委員が、自ら消費者として、または 所属される消費者団体の代表として、生の声を事業者委員や行政に直接お届けになることに は大きな意義があった。他面、私見では、この10年間、消費者委員に、事業者や各府県LP ガス協会、近畿経産局等の行政に対するお願いベースだけに基づく発言も多く見受けられた ように感じる。事業者委員に対して自由料金であることを周知してほしい、料金改定を説明 してほしい、撤去費用を明示してほしい。行政に対してそうした取り組みを監督してほしい 等々(議事録にて確認済)。これらのお願いは至極もっともであり、また、そもそも「物言 わぬ逃げない買手」としての位置づけしか与えられてこなかった消費者の代表として、その 声を届けるに当然の回路を用いたものでもある。 さりながら、懇談会が始まって10年余、エネルギー・システム改革の余波に伴う制度改革 に基づく競争の力に後押しされて、LPガス販売事業における「物言わぬ逃げない買手」とい う時代は、買手の選択肢に他のエネルギー供給主体も含むエネルギー選択競争の時代へと大 きく変革しつつある。消費者から見れば、まさにいま「物言わぬ逃げない買手」の立場を脱 却して真の意味での買手へと脱皮すべきときであるとも言い換えられる。上記のお願いは言 い続けるべきお願いではあるものの、同時に、今後は、個々の消費者自身が、前述の、各々 自らの選好に応じてエネルギー供給主体を能動的・主体的・合理的に選択する買手という意 味で、またそのように自らの利得計算に基づいて供給主体間を移動する買手(別言すれば、 エネルギー選択競争の環境下で、自らの具体的なエネルギー消費行動を通じて事業者による 搾取を競争的に牽制し、かつ、有効に抑止する買手)という意味で、事業者に対し、もっと 賢くタフな交渉と取引の相手方となることも極めて大事である。そして、消費者団体等は、 個々の消費者が賢い消費者になっていく活動を促進・支援し、消費者被害が発生する場合に はその回復等を手助けできる実力をつけることが大切になる。競争が欠如して売手独占であ るなど買手が売手に搾取されるには様々な理由があろうが、そもそもどのような値付けの理 路を通じてLPガスの輸入価格が決定され、それが国内でどのような流通経路を経ることで小 売価格が付けられるか等に関してLPガスの商品知識が不十分であり、また、自分の銀行口座 から月々自動で引き落とされるガス価格等の取引条件にさほど関心がないなど、買手の側で の総体的な情報不足という事情も売手の搾取に与っている。筆者は、懇談会等において、し ばしば、14条書面交付に関する消費者側での実感や認識と、事業者側での業界アンケート等 に基づく統計数値や聞き回りの結果等が大きくずれるのには、この消費者の側での総体的な 情報不足も関わっていると推察している。エネルギー選択競争の時代にあっては、消費者 も、売手の都合で搾取されるがままの「物言わぬ逃げない買手」の立場に止まってはなら ず、この立場を自ら脱却するために積極的に行動する買手でなければならない4。 古めかしいようにも聞こえるが、1962年にケネディ大統領が提唱し、1975年にフォード 大統領が追加し、1982年に国際消費者機構(Consumers International)が定式化した消 費者の8つの権利と5つの責務をいまいちど改めて想起することは、少なくない消費者がまだ 賢い消費者になる途上にあるLPガス販売事業においてはなお意義がある。すなわち、生活の 基本的ニーズが保障される権利、安全である権利、知らされる権利、選ぶ権利、意見を反映 される権利、補償を受ける権利、消費者教育を受ける権利、健全な環境の中で働き生活する 権利であり、かつ、商品やサービスの用途・価格・質に対し敏感で問題意識をもつ消費者に なるという責務、自己主張して公正な取引を得られるように行動する責務、自らの消費生活 が他者に与える影響とりわけ弱者に及ぼす影響を自覚する責務、自らの消費行動が環境に及 ぼす影響を理解する責務、消費者の利益を擁護・促進するため消費者として団結・連帯する 責務である。これらの諸原則は、そのままではないがわが国の消費者基本法にも盛り込まれ ている(消費者基本法2条1項)。複雑高度に発達した現代の経済社会に生きる消費者は、行 政から一方的に庇護され、または事業者から恩恵的に配慮される消極的・受動的な存在など では決してない。現代の経済社会に生きる消費者にはそれに相応しい権利が与えられ、同時 に、その権利の裏にそれ相応の責務も求められる5。 この間、広告を含む「表示(景表法2条4項)」規制や、消費者政策・制度は強化されてい る。まず表示規制にあっては、本年4月1日施行の改正景表法上、不当表示行為(5条)につ き、一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないこ と等を命じる措置命令(7条)に加えて、原則として対象期間に取引をした当該課徴金対象 行為に係る商品又は役務の売上額の3%の金額を国庫に納付しなければならない(8条)。ま た、不特定かつ多数の一般消費者に対する不当表示行為に関する適格消費者団体(消費者契 約法2条4項)による差止請求(30条)、平成26年改正景表法に基づく社内表示コンプライ アンス体制の整備(26条。参照、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置 についての指針(内閣府告示276号、平成26年11月14日)」)等も図られている。LPガス 販売事業においても、今後、消費者は、広告宣伝をなし得る経営規模を備える事業者が電力 会社やガス会社等による小売営業に係る行き過ぎた広告等に煽られて、またはこれらが小売 営業で提携する電力会社やガス会社等とセット・バンドル等する商品販売に係る広告につい て、景表法に違反する広告等をすることのないように注意を払う必要がある。 また、消費者政策・制度についても、平成19年以降、適格消費者団体は、不特定かつ多数 の消費者に対する消費者契約法違反行為に関する差止請求を実際に行っており、本年中には 消費者裁判手続特例法に基づき特定適格消費者団体(65条)が、集団的消費者被害回復のた めに共通義務確認訴訟および個別の消費者の債権確定手続の二段階訴訟を通じて被害回復を 図ることができるようになる。内閣総理大臣から適格認定を受ける(消費者契約法13条1項 ・2項)消費者団体については「消費生活に関する情報の収集及び提供並びに消費者の被害 の防止及び救済のための活動その他の不特定かつ多数の消費者の利益の擁護を図るための活 動を行うことを主たる目的とし、現にその活動を相当期間にわたり継続して適正に行ってい ると認められること」や「差止請求関係業務の実施に係る組織、差止請求関係業務の実施の 方法、 差止請求関係業務に関して知り得た情報の管理及び秘密の保持の方法その他の差止請 求関係業務を適正に遂行するための体制及び業務規程が適切に整備されていること」等の要 件(同法13条3項2号および3号)等が求められることに鑑みて、いまより1つでも多くの消 費者団体が適格認定を受けるべく(そして団体間でも対応機能等をめぐって有意な競争が生 じるように)、消費者団体としての諸機能・諸能力を高める努力を払い続けることが重要で ある。 以上の通り、本年4月からの電力小売自由化と次年度4月からの都市ガス小売自由化を踏ま え、その後に本格的に到来するエネルギー選択競争の時代には、消費者とそれを支える消費 者団体の役割には大きなものがある。LPガス販売事業においても、事業者の販売行為は、法 令中にその旨明示されていない限り、すべての「事業者(景表法2条1項)」の行う広告を規 制する景品表示法(以下「景表法」)、あらゆる「消費者契約(消費者契約法2条3項)」を 対象とする消費者契約法、特定商取引法等の適用を原則として免れない。筆者は、こうした 諸法の解釈と運用の実務も含めて、個々の消費者には自ら消費者の権利と責務をよく知って いただき、そして消費者団体にはそれを支える実力を備えるよう努力していただけるよう切 望する。この点で、既に、例えば(一財)エルピーガス振興センターでは、この10年余の間、 国からの受託事業として、一般消費者・消費者団体等を対象とするLPガス講習会を各地で 開催し、また、ウエブを通じたLPガス情報誌「LPガスガイド」を全国の消費者や販売事 業者を対象に発信してきた。各府県のLPガス協会においても消費者等との懇談の場を積極的 に設けるなど、事業者および事業者団体においても取り組みを進めてきたことを筆者は大い に評価している。我々皆が、懇談会の経験から引き出すべき2つ目の教訓は、以上の流れを 踏まえて、消費者が「物言わぬ逃げない買手」の立場から真の意味での買手となって立ち現 れる時代にあって、消費者をいっそう啓発し、かつ、消費者団体等の活動を、いま以上にも っと積極的に後押ししていくことに他ならない。もし消費者が「物言わぬ逃げない買手」の 現状を積極的に変えるところがないならば、いかに制度改革に基づく競争が導入されようと も、実のところその機会が生かされて消費者の利益が守られることは期待できない。 |
4 賢い消費者の前提で、個々の消費者が、エネルギーの選択判断において、価格・付加サービスの品質等だ けでなく、保安や防災・減災の観点、従来からのLPガス供給主体との地縁・血縁の観点等をも含めて総合 考慮する場合があるのは当然である。 5 このとき、不当な事業者の行為に対して、黙して語らぬままに権利をみすみす自ら行使しないのは当該の 不当な行為を甘受するに等しいということもまた、消費者が知っておくべき基本の1つである。 |
3. LPガス販売事業に対する行政の関与 懇談会には、国の行政という立場から、経済産業省資源エネルギー庁石油流通課ならびに 近畿経済産業局および中部近畿産業保安監督部のそれぞれの担当官が出席されるのは当たり 前である。他方、液石法上、一の都道府県の区域内にのみ販売所を設置してその事業を行お うとする場合に当該事業者の登録申請を受け付け(3条)、法定の拒否事由に該当しない限 り当該事業者を液化石油ガス販売事業者登録簿に登録し(3条の2)、災害が発生するおそれ があると認めるとき、液化石油ガスの規格に適合しないときの販売を禁止等し(13条)、 14条書面不交付の際にその交付等を命じ(14条2項)、登録を受けた事業者の貯蔵施設又は 販売の方法が省令基準に不適合と認めるとき当該基準に適合するように貯蔵施設を修理・改 造し、または基準に従ってガスを販売すべきことを命じる(16条)等を行う府県知事の部局 の職員等のご参加はどうか。 他地区懇談会の実情について承知しないが、近畿地方においては、当初、地方公共団体の オブサーバー参加者のほとんどが保安セクションに属する職員の方であったと筆者は記憶し ている。液石法の目的が「液化石油ガスの取引を適正に」することと並んで「液化石油ガス による災害を防止する」ことにもある以上、これはこれでよい。しかしながら、平成21年度 以前は、府県民消費生活セクションの方々のオブザーバー参加はごく少数に止まる印象をも っていた(議事録にて確認済)。また、14条書面交付義務の履行確認についても、府県の保 安セクションによる液石法上の立入検査(83条)の際に付随的に行われることが多いとも側 聞する。同法上、府県知事は「この法律の施行に必要な限度において、その職員に、その登 録を受けた液化石油ガス販売事業者・・・その他その業務を行う場所に立ち入り、帳簿、書類 その他の物件を検査させ、関係者に質問させ・・・ることができる」のであるから、いま各府 県において消費者行政に割けるヒューマン・リソースに大きな制約がかかっていることは筆 者なりに承知しているが、本来、府県民消費生活セクションも、取引適正化の観点からより 積極的にLPガス販売事業に関与してしかるべきである。おそらく、次年度4月以降のエネル ギー選択競争の時代の本格的到来に至れば、府県民の消費生活に最も密着して活動している 府県民消費生活セクションの方々も、否応なくいままで以上に積極的な関与を余儀なくされ ると想定される。そのとき、消費者に関して先に述べたと同様、新たなまたはLPガス販売事 業には必ずしも通暁されていない担当者等に対して取引適正化に係る実務等について啓発や リフレッシュ教育等が重要になろう。 国の行政についてはどうか。ここ10年余、懇談会での発言のなかで、例えば14条書面不 交付等に関わって、時々、筆者は「このように毎年何度も平成8年改正液石法に違反する行 為が横行している実態を聞き及びますと、本当に日本は法治国家であるのかと思います。」 とか、「14条書面のお話はもううんざりです。」などと悪態をつくことがあった(議事録に て確認済)。時々の石油流通課および近畿経済産業局の個々の担当官の方々に決して責任は ないが、私見では、前述の通り、LPガス販売事業における取引適正化を実現する真の駆動力 たる制度改革に基づく競争の促進・強化措置を具体的に講じないままにきた国にも行政とし て反省すべきところがないわけではない。この点で、総合資源エネルギー調査会・資源燃料 分科会・石油天然ガス小委員会・液化石油ガス流通ワーキンググループの設置とそこでの検 討を踏まえた報告書は、遅まきながら、また、エネルギー・システム改革に伴う余波という 間接効果によるところ大であるとしても、内容上非常に画期的である。筆者の見るところ、 この報告書は、消費者と事業者との間には「情報の質及び量並びに交渉力の格差(消費者基 本法1条および消費者契約法1条)」があるという実情を踏まえ、かつ、今般のエネルギー・ システム改革との関連のなかで一体的に考察するという観点からLPガス販売事業における取 引適正化の諸課題を論じている。そして、消費者がガスを選択する取組みの強化に向けられ る措置を、消費者と事業者の間でのエネルギー供給主体の選択とスイッチングを行うプロセ スにおける規律がいかにあるべきかという視点から整理しているように思われる。その基本 的、かつ、画期的なポイントとは、細部の異同はあれども、既に発出されている「電力の小 売営業に関する指針(経産省、平成28年1月)」、そしておそらくはそれとさほど異ならな い内容になると想定されるガスの小売営業に関する指針と実質的に見て遜色のない、ほぼ比 肩しうる規律をLPガス販売事業における取引についても構想するところにある。このように して、この10年余、重くて動かすことができなかった国としての行政の腰がいまようやく挙 がりそうである。平成16年度以降毎年この懇談会に陪席させていただいてきた者の1人とし て、実に感慨深い。筆者は、この報告書の提案内容の多くが経済産業省資源エネルギー庁の 行政ガイドラインとして集成されることになるよう期待している6。 国のエネルギー・システム改革の断行を踏まえると、懇談会に関わってきた我々すべてが、 石油ガス流通ワーキンググループ報告書に、行政としての迷いが見受けられず、本気で真剣 にLPガス販売事業における消費者取引の適正化に取り組もうとする姿勢を看取すべきであ る。この石油ガス流通ワーキンググループ報告書の公表を期に、我々すべてが、LPガス販売 事業にかつて存在した「物言わぬ逃げない買手」を相手にする商売という時代がもはや確実 に終焉を迎え、事業者がLPガスの供給に係る事業活動を展開すべきステージは、不可逆的 に、人為に依らない競争ルールが働くエネルギー供給主体間での大競争の舞台へと進化しつ つあることをお互いに確認し合いたい。この10年余を経過して、いま国の行政の行き着いた ところはもはや過去の延長上にはない。 |
6 私見では、報告書にも課題は残る。前掲注1に示した通り、消費者-事業者-建築業者等の三面取引適正 化問題のうち、報告書では、ごく部分的ではあれども、賃貸型集合住宅の入居者に対する賃貸借契約時 におけるLPガス料金の透明化の促進の観点から、国交省が不動産仲介業者に対して入居予定者にLP ガス販売事業者名及び連絡先を伝えるよう要請した旨(本年3月31日付)伝えている。しかしながら、 事業者-建築業者等間の取引適正化の課題は手つかずのままである。ただし、それを経済産業省に期待 するのは筋が良いとは言えず、おそらく公取委等の担うべき課題ではないかと考えている。 |
4.産業融合の途上にある総合資源エネルギー産業におけるLPガス販売事業 以下の記述は、懇談会での陪席経験に何ら関わるところはない。しかし、本稿がここまで 述べてきたことを踏まえて、今後のLPガス販売事業の行く末を展望する上で筆者なりに読者 にお伝えしたいと考える主題ゆえ、お与えいただいたこの場を借りて併せて言及したい。 これまでの10年余を踏まえて、この先10年で、エネルギー供給をめぐる風景はどう変わっ ていくであろうか。筆者は、LPガス販売事業を含めて、かつて縦割りに括られてそれぞれが 経済産業省資源エネルギー庁のそれぞれのカウンター・セクションによる公的規制を受けて いた電気事業・ガス事業(簡易ガス事業を含む)・石油精製業・石油製品製造販売業等は、 いま産業融合のとば口にあるように見ている。現状では各事業ドメインの比重の置き所はた いそう異なるものの、実のところ、電気事業者も、ガス事業者も、石油元売り会社も(こと によると資源会社や総合商社等とて)、各種の資源やエネルギー源を(海外でのそれぞれの 資源等の井戸元権益の確保やそこへの参画等も含めて)輸入し、国内で精製・分離・調製等 し、流通販売させるという実態においては、その規模の大小および子会社によるかどうかな ど経営形態さえ問わなければ既に各事業分野で、それぞれの会社グループとしておおむねオ ーバーラップしつつある。私見では、今般のエネルギー・システム改革を1つのステップと して、中長期的には、これらの縦割りの業際垣根は次第に崩れて、漸次、いずれ総合資源エ ネルギー産業とでもいうべき新たに融合的な産業が立ち現れるのではないかと見ている。当 然、そこでは、よりよい商品をより安価により優れた付加サービスを付けて買手に提供する という一般産業で普通に通用している競争ルールに依拠することになる 7。 LPガス販売事業は、こうした総合資源エネルギー産業への将来展望のなかでどのような立 ち位置を占め、いかなる事業デザインを構築していくべきであろうか。さしあたり3つの視 点を指摘しておきたい。 1つの視点は、いまもつ強みを生かしそれをより強めて、LPガス取引における顧客密着・ 顧客重視の事業運営を徹底し、各事業者それぞれの得意な分野や営業スキルを研ぎ澄ますこ とにあると思われる。LPガス取引の適正化に係る筆者の焦燥感については先程来縷々述べて きた通りである。それらの悪弊の是正はもとより、また液石法・特商法・消費者契約法・独 禁法・景表法等の関係法令の遵守も言うまでもなく、それを当然に前提とした上で、いまLP ガスを消費してもらっている消費者だけでなく、いまはオール電化によっている潜在顧客 や、いまは主として都市ガスによっている潜在顧客等の生活における新たなエネルギーの消 費局面にLPガスの新たな消費方法・形態を積極的に訴求し、持ち込み(例、FRP容器による LPガス消費の促進等)、いまの消費者と潜在顧客の日常生活をよりいっそう豊かにして、こ れらの買手の生活の質と価値向上に資するように、事業ドメインたるLPガスの供給で顧客密 着・顧客重視の事業運営を貫くことが肝要に思われる8 。 個人的な生活経験に基づくに過ぎないが、ひとは、実際に燃えている火による炙りや炒め による調理を好むように思われる。また、燃焼によって沸かした湯や空気の暖かさは電気に よるそれらとは異なりまた格別であるようにも思われる。防災・緊急のバックアップにもな るエネルギー源の確保は、複数のエネルギー源を確保することによってより確実な備えにな るように思われる。ひとの生活は、すべてを単一のエネルギー源で賄うよりも、多様なエネ ルギー源をメインとニッチ・適材適所に用いることによって、いっそう多彩に、より豊かに なっていくように思われる。筆者は、LPガス販売事業には、このような多様多彩で局所的な ニッチ需要に応じる潜在力が相対的に高く備わっていると評価している。事業者は、顧客の ニーズと事業者が現在もちおよび将来もち得るシーズの双方をよく把握し、その生活に密着 しつつ、いわばライフスタイルや生活のあり方そのものを一体的に提案するなかで、LPガス の販路と販売量を拡大していってほしい。そして、この面では、定期的な検針や点検等を通 じて消費者と対面して接触する機会において格段に恵まれているLPガス販売事業ほど、他と 比べて比較優位にある事業はないのではないか。おそらく電気・ガス等でのスマートメータ ーの普及に伴いHEMS・BEMS・FEMS・CEMSは急速に普及することになろう。そして、そ れはそれとしてそれぞれの単一エネルギー消費の合理化・効率化に役立つであろうことは間 違いない。しかし、上記のような顧客の生活上の顕在・潜在ニーズの深堀り、顧客と事業者 の協同的なウィン・ウィンの達成という点で、対面・対話での物理的な接触機会に豊かに恵 まれていることは、スマートメーターとはまた別の意味で事業者にとって貴重な目に見えな い経営リソースである9 。 第2の視点は、弱みを徹底的に改善して、LPガスの取引適正化に本気で真剣に取り組みつ つ、LPガス以外の商品・サービスでの収益分野を開拓し(事業多角化によるポートフォリオ の拡充)、できれば経営統合、それが直ちに無理でも共用の施設・設備やシステム等の拡充 等を強く推し進めることで、経営の安定化を図ることである。中小零細事業者が多数に上る というLPガス販売事業の特徴は、上記の顧客と事業者の協同的なウィン・ウィン達成の現実 化を妨げるだけでなく、14条書面不交付問題や無償配管の買取請求およびその不撤去・無断 撤去等までも含む消費者との契約問題について法務面での弱点をもたらしているように思わ れる(法務などというセクション自体が別個独自に存在しないという事業者も多いであろう 。)。また、このことは資金調達力や経営企画力という点でも好ましい効果を生むものでは 決してない。事業承継等の課題も併せて、LPガス販売事業の上記の弱点を是正し改善してい くことに向けて、公私の取り組みが喫緊に求められていると思われる。 第3の視点は、以上述べた2つの視点を統合して、顧客接点のいっそうの強化→垂直・水平 の連携と統合→新たな販売の方法と内容の顧客への提案→経営力、特に法務力と財務力・企 画力の強化をサイクルとして回すことを意識することが肝要であろう。これまで縷々述べて きた通り、エネルギー選択競争の時代にあってLPガス販売事業の将来展望には、確かに一部 に暗雲も垂れ込めている。しかし、本当の意味で、それぞれの事業者にいま鋭く問われてい るのは、自分の代だけ・いまの商圏だけなんとか固守できればよいという態度で単純に守り に入るのではなく、上記のサイクルをどれだけの規模とスピードで循環させることができる かではないか。LPガス販売事業は、いまも地方を中心に全国約4割強の世帯における普及率 を有し、防災・減災の観点から、かつ、CO2排出量が相対的に低いクリーンなエネルギー源 としても社会的に認知されている。加えて、私見では、前述の通り、いまの消費者と潜在顧 客の生活の質と価値向上に資する潜勢力で比較優位を持っているという意味で(別言すれ ば、少子高齢化が進みつつもよりスマートな集住も図るべきわが国のいまにあってまだなお 果たされていない使命が残されているという意味で)、LPガス販売事業には将来の社会から 期待されている意義と機能があるように思われる。事業者には、LPガスの供給だけに止まら ず、顧客の日常生活のあらゆる分野をすみずみに亘って丁寧に面倒をみて、顧客価値10の向 上に役立つ提案を、どしどし積極的・主体的に企画し、どこよりも早く実現していっていた だきたい。 この先の10年、こうした総合資源エネルギー産業におけるそれぞれのプレイヤーの創意と 工夫に溢れる活発で健全な競合いを通じて、消費者およびわが国の経済社会全体が享受する であろうそれぞれの便益の増大こそが、LPガス販売事業として、エネルギー・システム改革 の趣旨を建設的に生かしていく道筋にほかならない。また、この道筋をたどる以外に、今後 急速に産業融合が進む総合資源エネルギー産業のなかでLPガス販売事業が1つの事業として まとまりを保持しつつ、なおなにがしか独自・固有の社会的意義を伴って生き残っていく術 はない。事業者および各府県のLPガス協会等の皆様には、エネルギー選択競争の時代のもつ インパクトを後ろ向きに捉える悲観論だけで受け止めず、新たな飛躍に向けた“チャンス”と “挑戦”への絶好の機会ともなり得るよう前向きに受け止めていただき、それぞれの地域での よりよい未来作りに向けて、地域創生を牽引していくリーディングカンパニーの1つとなっ ていただくよう期待したい。 |
7 LPガスもしかりだが、資源やエネルギーについては商品差別化が困難であるという特徴から、競争ルー ルとして、電気やガスなどエネルギーの価格(料金)は消費者の購入・スイッチングの判断において決 定的に重要な競争要素である。したがって、各エネルギー供給主体によるそれぞれの商品の価格情報の 透明化と消費者に対する周知は、消費者の合理的・主体的選択を確保する見地とともに、事業ドメイン をまたがる売手間での競争条件の同等性確保の見地からも重要である。なお、この文脈で、資源やエネ ルギーに関係する事業では、小売営業において他の商品・サービスとのセット販売・バンドル販売等が 持ち込まれやすい素地を、その性質上有しているとも考えられる。 8 こうしたLPガスの価格と付加サービスの品質等に基づく健全な競争のあり方が売手全体に行き渡るよう になれば、一部の悪徳事業者によるイレギュラーな営業行為などは自ずと消費者および社会から厳しく 指弾・規制されるようになる。事業者は「悪いのは一部の悪徳事業者だけです」などと悪徳事業者だけ にすべての責めを負わせて、業界全体にあり得べき悪弊の横行を隠蔽し、または言い逃れすることがあ ってはならない。事業者のなすべきはエネルギー選択競争に真摯かつ誠実に向き合い、その結果生き残 ることである。 9 なお、このようにLPガス取引における顧客密着・顧客重視の事業運営を貫くことは、地理的・商品的に 顧客に対して直接の足回りを必ずしも十分持っていない総合資源エネルギー産業における有力プレイヤ ーから見れば事業提携上魅力的な経営資源の1つに写るであろうし、そもそもそうした足回りを有さない 総合資源エネルギー産業以外の潜在的プレイヤーにとっては極めて重要な戦略リソースに見えることで あろう点も、付言しておきたい。総合資源エネルギー産業のなかでも最川下に位置するLPG販売事業に とって、LPガスの新たな販売の方法と内容に挑戦する顧客密着・顧客重視の事業運営は、事業者の今後 の川上への垂直的・水平的な戦略的事業提携にとって相応しいパートナーと見なされるかどうかを分け る意味でも、決定的に重要になるように思われる。 10 Value Proposition:商品、価格、販売方法、顧客対応など、顧客がベネフィット(利得)として感じるも の全てを含む、事業者が顧客に提供する価値の組み合わせのこと。 |
おわりに 以上、近畿地方液化石油ガス懇談会に学識委員として陪席させていただいてきた経験とそ こでの知見等に基づいて、主として取引適正化について筆者なりに思う幾つかの教訓と将来 展望について述べてきた。懇談会では、最後に学識委員がコメントさせていただくことが慣 例になっているが、残念ながらいつも持ち時間は僅かである。本稿は、いわば10年余の間、 筆者が言い足りなかったことの総括コメントでもあり、個人的には真にすっきりさせていた だけた。他方、読者のなかには「それは言われなくても分かっている。それでもそうできな いところの事情を深く知りもせず、偉そうに言うな。」というお気持ちは湧くのが当然では ないかとも思う。今後、本稿での問題提起も1つの契機となって、LPガス販売事業における 取引適正化について各界各所でいっそう議論が深まるとともに、当該事業がさらに発展する ことを願ってやまない。 最後に、拙く、かつ、辛口にもかかわらず寄稿をお許しいただいた(一財)エルピーガス振 興センターのご厚意に衷心より感謝申し上げるとともに、近畿地方液化石油ガス懇談会の開 催にご尽力されてきた同センター・事業者委員・消費者委員・行政の担当者・ロジ担当の方 々など、これまで10年余に亘る懇談会に携わってこられたすべての関係各位に深く敬意を表 して、本稿を終える。文中、あり得べき誤謬はすべて筆者に帰す。 |
平成27年度近畿地方液化石油ガス懇談会 風景 |
追記 筆者は、上記3.記載の「液化石油ガス流通ワーキンググループ」に委員として参加した。 その後、このWGの報告書は総合資源エネルギー調査会・資源燃料分科会の中間論点整理 (案)(平成28年6月15日)24頁でも言及されており、公正・透明な卸市場形成と取引環境 の整備の観点から、特にLPガス取引における料金透明化の促進の重要性が指摘されている。 既に記した通り、LPガス取引における料金透明化を中軸とする消費者取引の適正化をめぐる 積年の課題解決は、国の行政にとっても、もはや待ったなしとなっている。今後、この流れ が後戻りすることは考えられず、かりに事業者が合理的理由なくこれに抗したり、いたずら に課題解決を引き延ばしたりしたとしても、そのような試みは、いずれも市場での選別と淘 汰の隘路に自ら進んで陥るかのごとき愚策である。むしろ、逆に、事業者は、時代と規制環 境の変化を正しく読み取って、他のエネルギー分野のどこよりも・同業他社の誰よりも早く 、より適切な形での料金の透明化等に積極的に取り組むことで、率先してエネルギー選択競 争の時代における競争優位を獲得するよう努めるべきである。 |