LPGC WEB通信  Vol.27 2016.06.10発行 

【特別寄稿】FRP容器による新たな需要開拓
       ~民生用エネルギーとしてのLPガス地位向上~



                 株式会社ヤマサ 代表取締役社長 髙田哲良 氏

はじめに
 2015年から日本において漸くLPガス用FRP容器の輸入販売が可能となった。FRP
容器は従来の鋼製容器と比較し、軽量・カラフル・液面透視さらには火災時に爆発しない等
々それまでのLPガスに対するマイナスイメージを払拭できる画期的な容器の登場である。
 この機会にFRP容器による潜在需要喚起について私見を述べたい。まずLPガスのマク
ロのエネルギー源としての位置づけでは、石炭、石油、天然ガス(メタン)等の化石エネル
ギーにおいてその供給可能量は、石油・天然ガスの其々から随伴して採掘されるものであり
、1割にも満たない。しかし、エネルギー特性は可搬性という点で、液体燃料に近く容易で
あり、燃焼性は天然ガス同様化石エネルギーの中ではCO2,煤塵,SOx、NOx等の発生
量が少ないという特性により民生用には非常に好適なエネルギーである。



国内のLPガスの移り変わり
 国内においては戦後石油精製事業が再開されてから、石油精製工程で生産され製品対象の
生成物ではなかったが、その利便性に目がつけられ、民生用として活用が開始されたもので
ある。昭和30年代になると、徐々に市場が形成され30年代後半に輸入が開始されると一
気に民生用中心に市場開拓が進み高度成長期に国内家庭のガス化に大きな役割を果たした。
当初民生用LPガスの用途はもっぱら家庭の台所でコンロ用に使用され、一家庭における使
用量は微々たるものであったが、その後瞬間湯沸かし器の登場で一気に使用量が伸びていっ
た。流通形態もコンロ使用が中心の時代は、10kg以下の鋼製容器による質量販売であっ
たが、計量のごまかし横行や使用量の増大から当時の通産省誘導で流量販売に移行し、容器
も20kgから50kgと大型化し家庭用バルクの登場に繋がってきているのは衆知の通り
である。

 しかしながら、順調に伸張した民生用LPガスも平成に入ると明らかに需要が頭打ちとな
った。その遠因は第二次オイルショック時の価格統制にある。つまり、第二次オイルショッ
ク時に急激な輸入価格の騰勢による国内市場価格転嫁の行き過ぎを抑えるために、政府の行
った価格統制は短期間に解除されたものの、何故かLPガス小売価格のみ半年ほど解除が遅
延された。輸入価格は高騰後現在のように急激な低落をしたものの、このタイムラグにより
その後のLPガス小売価格の相対的(対都市ガス比)高値安定状況を生み出した。そのため消
費者は大規模都市ガス供給圏では安価な都市ガスに切替が進んだ。それでも国内の大半の地
域では都市ガス供給圏ではないのでLPガス業界は全体として安穏としていられたが、電力
会社がオール電化攻勢を始めたのを期に衰退が顕著となってきた。無論同時期に少子高齢化
による世帯数減少もLPガス供給エリアの方がより顕著であり、その影響も加わって近年の
需要低下を更に鮮明なものとしている。


これからのLPガス
 では、LPガスはこのまま衰退の道を辿るのかという問題には、まだ確定的な答えはな
い。LPガス業界の対応次第では道の開ける可能性が残されているからである。これは大き
く二つに分けて考えてみたい。一つの解は流通コスト低減(=末端価格低減)による既存需要
再喚起であり、もう一つはLPガス特性を活かした潜在需要喚起である。前者は更に二通り
の道が考えられる。現状の流通形態での大幅な流通コスト低減、即ち充填所共同利用と共同
配送による充填コストの低減であり、そのためには地域毎に既存業者が思い切った結集によ
って集中充填と徹底した輻輳配送の廃止を行うことにあるが、現実には多くの困難が伴う。
現状の流通形態に寄らずに流通コストを抑えるためには現在のバルク供給に代わる技術的な
ブレークスルーが必要である。この点は本論から外れ過ぎるので割愛する。
 
 ここではLPガス特性を活かした潜在需要喚起について述べたい。冒頭で述べたようにL
Pガスは良好な燃焼特性を持つ燃料であると同時に可搬性に優れた特徴を持つ。諸外国では
この特性を利用して質量販売でLPガスの利用がなされており、発展途上国は勿論ヨーロッ
パなどでも民生用エネルギーとしては確固とした地位を占めている。一方わが国において
は、LPガス消費量ではUSA、中国に次ぐ大消費国ではあるが先に述べたように民生需要
低落傾向に陥っている。しかも我が国と諸外国との決定的な違いは質量販売ではなく、殆ど
が流量販売によることと、家庭内に配管を巡らして消費器具に接続していることが特徴とし
て際立っている。


外国における質量販売
 そこで諸外国のように質量販売について考えてみたい。この業界に長く関わっておられる
方は、質量販売は既に過去のものである、或いはコンプライアンス上の問題から現行法の下
では質量販売は無理である、という意見が業界内では圧倒的である。確かに現行法令規則に
則って質量販売をする場合には、かなり規制のハードルが高い面も多々見られる。これはL
Pガス普及期に主に事故防止の観点から規制強化されたことと、流量販売中心の考え方から
現在のようになった訳で、質量販売を禁止しているものではない。また規制強化された時代
と現在では迅速継ぎ手の普及等民生用消費先の安全性は比較にならないほど向上し、燃焼器
具においても立ち消え安全防止機能や誤接続防止等の仕様が標準的になっており、消費者責
任の範囲で十分安全が確保される状況となってきている。このような状況変化を受けて、現
行法でも消費者の利便性と安全性の確保の両面から検討された結果、我が国ではまだ殆ど普
及していないカップリングバルブによる質量販売は25リットル以下の容器(移動の規制を
考慮すると20リットル以下)であれば、消費者接続を認めることが明記されている。

 昨年一部法規制の改訂が行われ、輸入販売が開始されたFRP容器がまさに、この対象と
なるものである。現在はノルウェーのラガスコ社製の容器が最初の輸入販売製品であり、同
社は5kg、7.5kg、10kg、12kgのFRP容器を製造販売しているが、国内で
対象となるものは10kgまでで、20リットル以下であれば7.5kgまでが当面の対象
といえる。因みに現時点で流通開始に漕ぎ着けているのは7.5kg容器である。
 法規制には多少の問題があるものの、現在関係者の間で順次是正に向けての活動も行われ
ており、需要喚起と共に整備されていくものと考えている。


国内のLPガスの潜在需要
 さて、それでは潜在需要としてはどのようなものが考えられるか。ガス配管を屋内にめぐ
らした現在主流の方式では普及が妨げられている需要がこれにあたる。ガス会社は器具の普
及を進めるために多栓化を進めたが、LPガス業界は都市ガス業界に比較し多栓化は水廻り
程度で終わってしまっている。そのため暖房にはエアコンよりガスファンヒーターが立ち上
げスピード等優れているが普及には配管工事を伴うケースが多く、都市ガス世帯と比較して
普及率はかなり低い。また多栓化された世帯でもファンヒーターを使用する場合、ガス栓か
らヒーターまでゴム管で接続するのが一般的で、安全性や掃除の邪魔となるなど消費者から
敬遠される要素がある。

 質量販売ではヒーターと容器を一体型のケースに入れれば配管不要で使用できるので安全
性、美観等で消費者満足度が高い。また、街中のコインランドリーは流行から一転衰退して
いったが、近年再びブームとなり年々コインランドリーは増加している。これらは毛布や布
団などを丸洗いできるという家庭では出来ない需要もあるが、実は利用者の6割以上が家庭
の洗濯物を乾燥するためだけに訪れているのが実状である。これは、花粉や黄砂更にはPM
等の理由により晴れても外で干せない事情が増えていることと、共稼ぎの家庭が増え日中に
洗濯をしている暇がない家庭では短時間で乾燥できるコインランドリー利用が増加している
ことが背景にある。浴室乾燥機や乾燥機付洗濯機も増加しているが、高価であることと、仕
上がりに不満があることもコインランドリー利用につながっている。

 つまり、消費者はガス乾燥機が短時間で良い仕上がり乾燥ができることを認知している訳
である。そこで家庭用ガス乾燥機であるが、既に商品は従来から販売されているが、屋内で
は排気ガス対策工事が必要な上騒音が大きく普及していない。ベランダでの利用も場所が狭
いこととガス栓の工事を伴うので普及を妨げている。一方、近年の集合住宅は建築基準法の
改訂と快適性の観点からベランダの幅を広くとるようになっており、乾燥機を避難通路を塞
がなくても設置可能な状況になってきている。そこで質量販売で乾燥機をベランダに容器収
納台の上に設置すれば、配管工事不要で即日使用が可能となる。乾燥機は通常使用で10数
年は問題なく使用できるので試算をしてみると、機材の償却費とガス代等のランニングコス
トを加えても1回当りのコストは200円以下に抑えられる。コインランドリーの一回の乾
燥機使用料は通常500円程度であるから、十分潜在需要を掘り起こす可能性がある。その
他にもオール電化世帯でもIHからガスコンロにしたいという声があるが、配管工事を考え
るとできないという家庭が多いが、質量販売ではシステムキッチンのシンク下に5kg容器
を置けば簡単に設置利用ができる。業務用ではパラソルヒーターやモスキート対策等が今後
増加していくものと思われる。


最後に
 以上FRP容器による新規需要開拓の可能性について述べたが、LPガスの質量販売では
従来と違った利用がまだまだ考えられるので、カップリング充填対応の業者が増加してくれ
ば、消費者側からの関心も高くなり未知の潜在需要開拓につながることを期待している。

  ◆欧州販売事例 1 (複数の販売事業者がスーパーに委託している)

スーパーの駐車場

   ◆欧州販売事例 2
 
スーパーの駐車場

 
小型容器の二段積み配送車
(転倒防止とフォークリフトでの荷卸しを想定したケースに収められている)