LPGC WEB通信 Vol.11 2015.02.10発行
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特別寄稿=振興国におけるLPガス市場開発 Part.3= |
今回の「新興国におけるLPガス市場開発Part.3」はモンゴルに焦点を当て、エネルギー 事情、LPガスの現状等を報告いたします。 モンゴル政府は、2000~2005年にLPガス・プログラムを開始しました。当該プ ログラムのフレームワークの範囲でLPガス企業を支援するために、幾つかの重要な対策が 採用されています。 この結果は、エネルギー部門にとって好ましい開発環境となり、大成功となりました。L Pガス・プログラムは2010年まで延長され、今日にいたっています。 |
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7 モンゴル | |
(1)モンゴルという国 | |
モンゴルは国境線をロシアと中国に囲まれているため、戦略的にも経済的にも両国の影響 を強く受けています。 国土は1565千k㎡と日本の約4倍に相当する面積ですが、総人口は約287万人であ り、 人口の約30%が首都であるウランバートル(UB)に集中しています。そして、現在 でも毎年で約2万人がUBに移住してきています。 国土は平均高さで海抜1,500mの高地にあり、9月から翌年の4月までの8ヵ月にお よぶ厳しい寒さの中で生活しています。エネルギー資源は石炭、石油などが豊富で、鉱物資 源としても金、銀、銅、レアメタル等が存在しています。 しかし、モンゴル経済は、鉱物資源およびカシミヤ製品の輸出がロシアと中国に集中して いることが弱点といわれています。同国も他の新興国と同様、技術開発が経済を近代化させ ると共に、温室効果ガスの排出を低減し、人々の生活水準を改善することは間違いありませ ん。 |
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(2)モンゴルのエネルギー事情 | |
①一次エネルギー構成 | |
モンゴルの都市人口は総人口の60%以上(170万人以上)を占めています。過去10 年以上にわたる都市化の波は、家庭用や業務用分野でのエネルギー需要の急激な高まりを招 き、供給不足を引起し、経済成長への妨げにさえなっています。 一次エネルギーの構成は下図に示したように、石炭約60%、石油約30%となっていま す。資源量の豊富な石炭中心の構成となっていますが、これがまた、重大な大気汚染の原因 にもなっています(「(8)都市部での大気汚染問題」に後述)。 |
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②エネルギー消費構成 | |
モンゴルでは8ヵ月に及ぶ厳しい寒さ(厳寒期-20℃~-30℃)の中で生活が営まれ ていることから、下図に示されるように集中熱供給を目的とする電気・熱供給(熱併給発電: CHP=Combined Heat and Power)がエネルギー消費の大半を占めています。CHPで あることから、都市部・マンションではセントラル暖房・給湯が主流となっています。 |
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③エネルギー部門の開発戦略 | |
④家庭におけるエネルギーの種類 | |
モンゴルの家庭エネルギーの消費構成を下図に示しました。モンゴルではCHPからのエ ネルギー供給(熱+電力)が中心で約70%を占めています。 |
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(3)石炭 | |
モンゴルの石炭埋蔵量は1,623億トンと推定され、世界の石炭埋蔵国の中で第10位 を占めています。また、南ゴビ砂漠のタバン・トルゴイ鉱山の粘結炭埋蔵量は64億トンと 想定されています。 「(2)モンゴルのエネルギー事情 ①一次エネルギー構成」に前述し たように、この豊富な石炭が一次エネルギー(熱+電力)の中心となっています。 また、この豊富な石炭は、隣接する世界最大の石炭消費国である中国と密接な関係を強化 すると共に、世界の石炭市場で成長する戦略的なプレーヤーにモンゴルを位置付けることに なると考えられています。 |
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(4)石油 | |
モンゴルには16億トンの石油資源があるとされます。これは、石油資源を保有する国の 中で第33位にランクされています。 モンゴルではLPガスを含むすべての石油製品をロシアおよび中国から輸入しており、2 009年の石油製品輸入量は767千トンとなっています。また、その輸入金額は輸入全体 の約25%を占めています。 なお、小規模ながら原油が生産されていますが(下図参照)、前述したように石油製品は 輸入に頼っているのが現実です。 モンゴルの2008~2012年のアクションプランによると石油探査と石油製品の生産 促進、第三者からの石油の購入、近隣諸国における精製、そして現在、国内初の製油所を建 設しており(2015年に操業予定)、石油に関しては自立を目指しています。 ※建設中の製油所概要 ウランバートルの北200kmに位置するダルハン市にモンゴルセキユ(Mongol Sekiyu )が丸紅と東洋エンジニアリングに発注。両社は同製油所の建設、保守・運営 管理を請け負う予定。同製油所の稼働により現需要量は賄える。 原油はロシア・シベリア地方のイルクーツク油田や隣国のカザフスタンからの調達を 計画している。 原油処理能力 44,000bbl/日(250万トン/年前後と想定される) 製品 ディーゼル 100万トン/年 ガソリン 63万トン/年 ジェット燃料 6万トン/年 |
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(5)電力 | |
電気と熱供給を都市部の居住者に提供するために、石炭火力による熱電併給発電設備(C HP:Combined Heat and Power)が随所に設置されています。 これらの発電設備から電気、産業用蒸気、地域暖房システムおよび家庭用給湯等のエネル ギーが供給されています。世界で最も冷えた首都とされるウランバートルでは旧ソ連の設計 による3ヶ所の熱併給発電設備が稼働しています。 |
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(6)再生可能エネルギー | |
モンゴルの再生可能エネルギーの現状は下表のとおりです。 | |
(7)LPガス | |
①概要 | |
前述したとおり、モンゴル政府は、2000~2005年にLPガス・プログラムを開始 しました。当該プログラムのフレームワークの範囲で、LPガス企業を支援するために、幾 つかの重要な対策が採用されています。 この結果は、エネルギー部門にとって好ましい開発環境となり、大成功となりました。L Pガス・プログラムは2010年まで延長され、今日にいたっています。 現在、LPガスはタンクローリー、鉄道タンク車および容器によりロシア(1999年よ り輸入開始)および中国から輸入されています。しかし、日本企業が建設を進めているダル ハン市の製油所が2015年に操業を開始した暁には、国内産のLPガス供給が開始され、 普及が加速されるものと期待されています。 |
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②LPガス企業と業界団体 | |
現在、LPガスを輸入し供給を行っている企業は10社あり、LPガス貯蔵タンクの総容 量は、1,600㎥(約700トン)に及んでいます。また、ウランバートルには8ヶ所の LPガス容器充填所があります。全国では15ヶ所の充填所および20ヶ所の貯蔵所がある ようです。 ゴロ・ガス(Gor-Gas)、ガス・プロント(Gas-Pront)、ダシュバンジル(Dashvaanjil) 、ガス・サービス(Gas-Service)、モン・ガスサービス(Mon-Gas Service)およびユニ・ ガス(Uni-Gasサイサン出資、ウランバートル市)により2006年にLPガス企業協会が 設立されました。同協会はLPガスの利用を促進すると共にモンゴルにおけるLPガス・サ ービス産業の発達に貢献することを目的としています。 |
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③LPガスの利用 | |
LPガス利用の規模は小さいものの、家庭用調理器・給湯器、金属工場の加熱炉、自動車 用燃料、観光施設および携帯用燃料、建設およびケータリング分野等において利用されてい ます。 2008年現在、家庭用LPガスのユーザーは19の地方行政区において1万5千世帯に 達し、ウランバートルでは7千世帯以上のユーザーが存在しています。 またドルンゴビ、ブルガン、バヤン・ウルギ、バヤン・ウルギ、ゴビ・アルタイ、ウムン ゴビ等の幅広い地域において、LPガスによる家庭給湯も一般的になりつつあります。 なお、LPガス需要量についての詳細なデータはモンゴル政府からは公表されておらず、 また、WLPGA(世界LPガス協会)でも把握していないようです。 なお、2015年からは稼働予定のダルハンの製油所(44千bbl/日)からの生産品 供給も想定され、大気汚染対策とも相まってLPガス利用の拡大が期待されます。 |
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(8)都市部での大気汚染問題 | |
前述のとおり、モンゴルは9月から翌年の4月まで8ヵ月に及ぶ-20~-30℃の厳し い寒さの中で人々が暮らしています。このため、家庭におけるエネルギー消費の中で暖房用 が大きな比率を占めています。 都市であるウランバートル、ダルハン、エルドネット、チョイバルサン等の約40%の家 庭の暖房、給湯ネルギーは熱供給(日本でいう地域暖房、地域熱供給)に頼っています。 しかし、多くの家庭はゲルに居住し、ゲルを暖房するためには、年平均でおよそ5トンの 石炭もしくは4.3㎥の薪が必要とされています。小型で効率が低いストーブで石炭あるい は薪を燃やすことにより、国際基準の2~10倍レベルの大気汚染物質を生ずる結果を招い ています。 結果として、首都であるウランバートルの大気汚染はひどく、原因の約90%は、低所得 世帯が大半を占めるゲル地区から生じているといわれています。 ※一般炭の発熱量 約27MJ/kg(約6,500kcal/kg) ※※ゲルでの消費量 ゲルでの石炭消費量を年間5トンとすると、 5,000kg/年×6,500kcal/kg=325万kcal/年 LPガスと石炭の熱効率が同じと仮定して、LPガス換算量は、 325万kcal/年÷12,000kcal/kg≒2,700kg/年 となります。 |
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(9)大気汚染問題への対応 | |
①概要 | |
モンゴルではWHOから世界で最も厳しい大気汚染状態にあるとの指摘を受け、以下の対 策を打ち出しています。また、その中で、対策の一つとして、LPガスやDME(Di Methyl Ether)の活用が謳われています。 |
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さらに、ウランバートルの大気汚染を低減させるために「新たな再構築」プログラムが設 定され、「ウランバートル無煙化」に向けての取り組みが始まっています。関連する主要な 条文を下記に記載します。 第4.1.5条 ウランバートル市の大気汚染を減らすことを主要な政策方針として定める。 第4.1.5.2条 ストーブおよび低圧ボイラーの刷新、断熱の改善およびゲル地区における家庭用生石炭 使用の縮小をとおして粒子状物質(PM:Particular Matter)を50%レベルに減らす ことを目標に定める。 第4.1.5.3条 家庭用の効率の低いボイラーおよび生石炭使用の段階的な禁止を実行し、無煙燃料、ガ ス燃料、電気および他の新しい技術的解決策の導入をとおして、大気汚染物質を60% 削減することを目標に定める。 第4.4.5.11条 ゲルにおける従来型ストーブをガス・ヒーターに転換すること。 第4.4.5.14条 家庭用として無煙燃料、ガス燃料、電気を使用するために新しい技術的解決策を導入し、 生石炭の段階的な禁止を強制実施すること、またクリーンな解決策への転換に伴う家庭 の支出が著しく増大する場合には行 が最適な支援を提供すること。 |
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②DME | |
前述の「新たな再構築」プログラムに基づいて、エネルギー・リソース社は今後のモンゴ ルにおけるガス体エネルギーとしてDMEが有望であるとの判断から、中国よりDMEを輸 入してゲルにおける実証試験を行いました。 DMEが有望であるとの判断は、現在のモンゴルにおけるエネルギー源の大半が石炭であ ることから、石炭ガス化ガス(CO、H2)の活用を図ることができることによります。 また、2015年に操業が予定されている製油所の動向によってはLPガスと競合もしく は併用が想定されますが、何れもガス体エネルギーとしては互換性があることから、実証試 験の結果も踏まえて問題なしと判断したようです。 試験結果は、熱効率および排ガス分析の何れも極めて好成績が得られ、ウランバートル市 からも好評を得ることが出来ました。 |
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8 おわりに | |
本稿は「新興国におけるLPガス市場開発」と題して、ベトナム、ミャンマーそして今回 のモンゴルと三部作で寄稿いたしました。 Part.1で書きましたように、アジア諸国でのエネルギー使用量は世界平均を上回る速度で 大きく拡大しています。特にアジア諸国は人口・世帯数も増加しており、生活水準の高まり と相まって、エネルギー需要の増加は目を見張るばかりです。 ちょうど戦後間もない日本でも同様だったと思います。アジア諸国も日本と同じような道 を歩むのではないでしょうか。エネルギー利用先進国の日本の役割はますます高まっていく と思われます。 |
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(特別寄稿/御法川龍雄) |