LPGC WEB通信 Vol.10 2015.01.10発行
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特別寄稿=新興国におけるLPガス市場開発 Part.2= |
2011年、国連は2030年までに多方面にわたるエネルギーのアクセスを確実にする イニシアティブに着手しました。 イニシアティブには「全ての面に向けた持続可能なエネル ギー(Sustainable Energy for All:SE4ALL)との名称で2030年までに達成する以下の 3つの目標が掲げられています。 |
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1 エネルギー・アクセス改善 | |
近代的エネルギーへの普遍的アクセスの達成 | |
2 エネルギー効率改善 | |
世界全体でのエネルギー効率の改善ペースを倍増 | |
3 再生可能エネルギーの普及 | |
世界全体のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーのシェア倍増 |
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SE4ALLに掲げられる3つの目標の中でも、「近代的エネルギーへの普遍的アクセスの達 成」は緊急の課題とされています。固体燃料への依存は、アジアにおける数百万人もの人々 の早死(大半は女性と子供)といった厳しい差し迫った状態を産み出しています。 SE4ALLの他の2つの目標と比較して、国連の掲げたミレニアム開発目標(より高収入、 より長寿命および性別公平)を認識するためにも「エネルギー・アクセス改善」は基本的な 第一歩です。 |
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6 ミャンマー | |
(1)ミャンマーのエネルギー改革 | |
ミャンマーにおいても前述の3つの目標を達成するための技術開発が同国の経済活動を近 代化する共に、温室効果ガスの排出を低減し、人々の生活水準を改善することに結び付くこ とは間違いありません。 2011年前半以降、ミャンマーは権威主義的な規則から脱却する顕著な傾向を示しまし た。現在の政府は改革を約束し、そして幾つかの重要な対策はすでに行われつつあります。 また、一部のヨーロッパ諸国は最近のミャンマーに対する政治的、社会的、経済開発を支援 するために高いレベルの使節団を派遣しました。 これらの変化は、将来のエネルギー分野に関してミャンマーとヨーロッパとの間における 開発協力の新しい見通しを形作ることになるものと思われます。 |
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(2)ミャンマーという国は | |
東南アジアで最も大きな国であるミャンマー連邦共和国(旧ビルマ)は、5,140万人 の人口を抱えていますが、人口密度は東南アジアで最も低い76人/k㎡となっています。 また、同国はバングラディシュ、インド、中国、ラオスおよびタイと国境を接しており、 ベンガル湾とアンダマ海に沿って1,930kmに及ぶ海岸線に囲まれています。国土はヒ マラヤから南北に3つの山脈が走り、3つの河川(イラワディ、サルウィンおよびシッタウ ン)により分断されています。 沿岸地方の年間降雨量(雨季は4ヵ月間)は5,000mm以上であり、いわゆるアジア のモンスーン地域に該当しています。また、乾燥地帯は1,000mm未満ですが、デルタ 地帯はおよそ2,500mmです(日本は1,700mm)。平均気温は沿岸およびデルタ 地帯で32℃、北部地域は21℃となっています(東京は17℃)。 |
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(3)ミャンマーの成長とエネルギー資源 | |
ミャンマーは軍事政権から民主主義政権への移行が進むにつれて、多くの課題とチャンス に直面しています。同国が政治的および経済的改革を続けるならば、次代の東南アジアにお ける成長セクターとなる資源や人的な潜在能力を持っているとされますが、現時点では、近 隣諸国と比べてもまだまだ低いのが実情です。 同国の2013年における一人当たりの名目GDPを近隣諸国と比較しました。 カンボジア 1,028US$ ミャンマー 1,113US$(世界第156位/186ヵ国中) ラオス 1,593US$ ベトナム 1,901US$ タイ 5,675US$ 中国 6,958US$ 日本 38,467US$(世界第24位/186ヵ国中) ミャンマー政府は、GDP成長率を1990年からの8.9%をやや減速させ、2010 年から2035年において年間平均で7.0%を目標にしています。それが達成されるなら ば、2030年の個人のGDPは現在の3倍/3,000US$に達することが予想されて います。また、成長の見通しは下記のような項目により高く評価されています。 ●5千万人を超える人口と多くの若い人々 (2010~2035年におよそ1.0%の増加を想定) ●インドおよび中国との地政学的位置付け ●大量に存在するにも関わらず今だ利用されていない資源(水力、ガス、石油、石炭、バイ オマスエネルギー等) ミャンマーは信じられないほどの豊富な天然資源(例えば木材、水力、天然ガス、貴重な 宝石や鉱物)が存在するにも関わらず、東南アジアにおいて最も経済開発が遅れている国と いえるでしょう。 これらの資源の中で天然ガスおよび石炭は輸出しています、原油は国内需要の約50%を 輸入に頼っています。 |
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(4)ミャンマーのエネルギー不足 |
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①照明用を含めた電力不足 豊富なエネルギー資源が存在するにも関わらず、国内のエネルギー供給の70%以上は森 林等からのバイオマス燃料をベースとしています。 照明等に不可欠とされる電力は、発電所能力3,460MWであり、人口の13~25%し かカバーしていません。中でも農村地域における送電網は65千も存在する町村のわずか7 %をカバーしているに過ぎません。したがって、70%以上に及ぶ家庭では部屋の照明を得 るために石油ランプやロウソク、電池を利用しているのが実情です。 ②森林伐採による環境破壊 農村地域に暮らす人々の大半は、燃料用の薪を収集するために年間で233時間(20時 間/月)を費やしています。この結果、森林伐採による環境破壊、さらには肥沃な土地の活 力を低下させ、結果として食糧安全保障問題の発生とつながってきます。 ミャンマーにおけるエネルギー供給の構成比率は下表のとおりですが、バイオマス由来が 70%を占めており、もちろん、家庭用では大半がバイオマスです。 |
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(5)現在のエネルギー対策 | |
前述のエネルギー問題に対処するために、ミャンマー政府は他の開発目標と併行してエネ ルギー開発計画および利用計画に基づいた地域社会向けのエネルギー分散供給メカニズムを 計画しています。 このため、水力やバイオマス等を利用する発電所の建設、送電網の整備および液化バイオ 燃料製造設備の建設等に関して海外を含む民間企業との提携を促進しようとしています。 また、地方のエネルギー供給メカニズムを確立するために、地域単位でエネルギー設備の 維持管理を確保するトレーニング・センターや技術的品質や構造物のメンテナンスを確保す る再生可能エネルギー普及促進センターを設立しています。 現在のエネルギー対策はエネルギー管理委員会に加えて、以下のように各省庁間に権限が 分散され、エネルギー省が様々な調整を行っています。エネルギー省(MOE)とエネルギ ーに関する行政組織を下図に示しました。 |
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(6)エネルギー省の方針 |
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エネルギー省では、エネルギー問題に関するプロセスとパフォーマンスを向上させる目的 で、次の方針を述べています。 ①エネルギーの貧困解決は重要な課題であるとの認識 ②プロセスの改造は開始 ③地方のエネルギー開発を行う各省庁間にわたる委員会の設置 ④分散エネルギーの供給システムに関する発議 ⑤改造プロセスに関する優れた実施の発案者に利益を提供 ⑥エネルギー分野における改造プロセスを支援する強力な国際関係者の必要性 ⑦緊急の課題であるエネルギー・ニーズに伴う行政の対応改善の必要 |
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(7)LPガスの現況、終戦直後の日本と同じ? |
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都市部の家庭では極めて少数ですが、LPガス(普及率:0.9%)または電気を利用し て調理している例があり、小規模ながらLPガス充填所も建設されています。また、天然ガ スから分離されるLPガスの生産量は一時減少しましたが、最近増加の傾向が見られます。 従って、今後のGDPの上昇や環境問題への対応等から送配電設備やパイプライン設備等の ように多額の設備投資を必要としない分散供給システムとして、LPガスの普及が期待され ています。また、最近では海外資本を活用したLPガスの充填・供給やオートガス産業も始 まっているようです。 |
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いずれにせよ、ミャンマーでのLPガスは人口の伸びと経済の高度成長等により、消費原 単位としては、ベトナム → タイ → 中国のようなステップを踏むのではないでしょう か。なお、ミャンマーのLPガス生産量8,174トン(2010~2011)は昭和20 年代後半の日本の数量とほぼ同じです。戦後間もなくの日本と同じと考えられますので、四 半世紀~半世紀もすると、膨大なマーケット、いわゆるLPガスの数百万トン・プレーヤー が続々と登場するものと思われます。 |
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(8)LPガスの規定・基準と問題点について | |
ミャンマーの規定・基準類は英国の植民地時代からのものが多く、時代遅れで、混乱し、 かつ分散しています。例えば、ミャンマーにおける度量衡基準ではポンドとキログラムの他 に旧インドの基準も混在しています。また規定・基準類は多くの分野に存在しますが製品の 安全規則はほとんど存在しません。 また、ミャンマーは1957年にISOのメンバーになりましたが、1965年に脱退 し、その後2005年に客員メンバーとして復帰しました。 科学技術省は国際標準を引用して基準を維持していますが、その大部分の政府情報は民間 の団体や市民、組織と共有されていないようです。さらには政府活動を悩ませている汚職や 非効率性という問題もあります。 その結果、ミャンマーの巨大なブラック・マーケットには偽物や未登録製品が満ち溢れて います。不法に近隣諸国から輸入されるこれらの製品は、問題を悪化させています。 海外の報告書によると、ミャンマー政府のエネルギーに関する情報管理(特に家庭のエネ ルギー調査)が欠如していることが同国における貧弱なエネルギー政策を引き起こしている としています。また、オーストラリアの報告書によれば、「ミャンマー政府は家庭用分野に おけるエネルギー効率プログラムを実行しなければならない」こと、さらには、「同分野に おけるエネルギー消費に関する多数の公式データについては、政府や民間および国際組織の 協力によって改善されなければならない」としています。 ISO :International Organization for Standardization 科学技術省 :Ministry of Science and Technology |
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(特別寄稿/御法川龍雄氏) |