LPGC WEB通信 Vol.9 2014.12.10発行
|
特別寄稿 =新興国におけるLPガス市場開発 Part.1= |
新興国の多くに見られる急速なLPガス需要の増加は、世界のLPガス需給に大きな変化を生じさせています。中でも、家庭用エネルギーの需要増に対応するため、また、従来からの伝統的な森林伐採による燃料収集やバイオマスの燃焼によって引き起こされる健康被害や環境破壊などの悪影響を低減させるためのエネルギーとして、容易に入手できるLPガスが脚光を浴びています。 新興国にとって不可欠な課題とされているLPガス市場開発について、筆者の経験を踏まえて12月号から2月号まで3回にわたり連載いたしたいと思います。12月号は新興国全体とベトナムを中心に概要を述べます。 |
|
森の木々を燃やしてエネルギーを得るのは森林破壊につながる |
|
1新興国エネルギー開発目標(ミレニアム開発目標) 国際連合が主導する新興国に対する「ミレニアム開発目標」では、国連に加盟する193の 全ての国と23の国際機関が、これらの目標を2015年までに達成することで合意していま す。その目標にはエネルギーに関連するテーマも多く、下表に「国連ミレニアム開発目標」の 中のエネルギー関連項目について抜粋し、まとめました。 |
|
水を運ぶ少女と黒煙を上げる民家の煙突 |
|
2新興国でのLPガスビジネスモデル 多くの新興国で見られる急激な人口増は新しいエネルギー・マーケットに対するLPガス供 給に差し迫って解決すべき課題を引き起こしています。 このマーケットの可能性に関して、LPガス業界の予想は3000万~6000万トンのL Pガスが新興国のエネルギー・マーケットにおいて今だ消費されていないこと、そしてその量 は世界のLPガス供給の15~30%の潜在的増加を意味するとしています。 新興国において効果的にLPガス市場を確立するためには、潜在する消費者ニーズと供給事 業の間におけるギャップを埋める持続可能なビジネスモデルを構築することが重要です。十分 に理解された広範囲の市場特性とバリアの解消に向けた戦略の構築が求められます。 |
|
LPガスで調理するベトナムの料理店 室内設置の容器からゴム管と三又で供給している、日本では禁止だ |
|
3 ASEANのエネルギー需要量 新興国の中でもASEAN諸国は、経済および人口の成長が世界で最も進展し、エネルギー の需要が急速に伸びている地域です。また、ASEANはエネルギー資源の埋蔵量および利用 に関するスケールとパターンにおいて加盟各国の間で大きな差が存在する多種多様な地域でも あります。 ASEANのエネルギー需要量は、2005~2030年の間に2倍になると予測されてい ます。IEAのASEANエネルギー展望2013によると、ASEAN地域におけるエネル ギー需要は年間平均成長率3%として、石油換算トン(TOE)で2011年の5億49百万 トンから2035年には10億4百万トンに到達すると想定されています。 この想定は、世界における2030年までのエネルギー消費における平均成長率1.8%に 比較して非常に高くなっています。 ※TOE:Tonne of Oil Equivalent 石油換算トン ※※BOE:Barrel of Oil Equivalent 石油換算バレル |
|
ASEAN諸国のエネルギー資源と動向 |
|
4 ASEANを含む新興国での料理用エネルギー 新興国で使われる燃料の消費と使用形態のレベルには大きなばらつきがあります。 正確な分類は難しいのですが、新興国の家庭用エネルギーの主な利用は、料理(エネルギー の大半を占める)の他に暖房と照明が続きます。また、家庭では、料理のために幾つかのエネ ルギー源を組合せて使うのが一般的です。 エネルギー源としては、伝統的なエネルギー源(薪、農作物の残渣、糞)、中間的なエネル ギー源(木炭、灯油)、または近代的なエネルギー源(LPガス、バイオガス、エタノール・ ゲル、植物油、DME(ジメチル・エーテル)および電気)に分類されます。 電気は料理よりもむしろ照明に使われ、家庭で消費されるエネルギー全体の中ではわずかな シェアを占めているに過ぎません。 下表に選択された燃料の初期コストと燃料コスト、また、各種燃料の特徴を記しました。 |
モンゴルの薪炭燃料販売店 | ベトナムのLPガス販売店 |
中国の固体燃料コンロ兼ストーブ | モンゴルの固体燃料の種類と価格表 |
選択された燃料の初期コストと燃料コストおよび特徴 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5 ベトナム (1)ベトナムの概要 ベトナムのLPガスを初めとするガス・マーケットは国全体の力強い経済成長を背景に急速 に拡大しています。主な理由としては、天然ガス発電所の新たな建設、一般家庭や工場でLP ガスや天然ガスを燃料として利用する機会が増えてきたことが挙げられます。 ガス需要は2008年~2011年の間に年8.3%増加し、2011年~2020年にか けて引き続き年率12.1%増加し、2020年には248億㎥に達すると予測されています。 また、ベトナムでは現在、増大する需要に対応するため、国内で中流部門・下流部門を育成し て需要の増加に備えた大掛かりな計画に乗り出 しています。(出展:ベトナム石油・ガスレ ポート2011年) これまでベトナムでは、国内で消費される石油・ガス製品の多くを輸入に頼ってきました。 2005年~2011年におけるベトナムの石油および石油製品の輸入は輸入額の第二位を占 めており、平均してベトナムの総輸入額のおおよそ11%を占めています。 ベトナム政府は高付加価値の石油製品を創出し、輸入への依存を減らすために中流部門と下 流部門を国内で育成するという意欲的な計画に着手しました。 (2)ベトナムの製油所建設計画 中流部門に関しては、ベトナム政府がエネルギーの安全保障を強化するため新たな貯蔵シス テムとガスパイプラインの建設に関する大掛かりな拡張計画を承認しました。この計画の目的 は南部のガス産業インフラを完成させ、北部・中部地域においてインフラ建設を開始すること にあります。 ベトナムでは産業省(Ministry of Kndustry)が、国営企業であるベトナム電力、ベトナム 石炭社およびPetroVietnam(ペトロベトナム:PVN)の監督を含むエネルギー分野を管理 する役割を持っています。 ベトナムには2010年初めに稼働開始した148千BPDの精製能力(国内需要の30% のシェア)を持つ Dung Quat 製油所しかありませんでしたが、現在、数ヶ所の製油所建設計 画が進んでいます。 Dung Quat製油所と計画中の北部のNghi Son製油所の能力を合計すると2016年に国内 需要の60%が供給できると予測されています。
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ベトナムの製油所建設プロジェクト |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(3)ベトナムのガス業界の構造 ベトナムには2ヵ所のガス処理設備があり、何れもPVNによって運営されています。 ・Dinh Coガス生産処理工場 20万トン/年 ・Dung Quat製油所 30万トン/年 ベトナムのLPガス・マーケットでは、PVNの子会社であるPetroVietnam Gas(ペトロ ベトナム・ガス)がLPガスの供給資源、マーケット・シェアおよびインフラに関する主導権 を持っています。 代表的なLPガス卸売業者としては、PetroVietnam Gasの他、外資系のシェル、BPおよ びエクソンモービル、また、国営のSaigon Petro(サイゴン・ペトロ)やPetrolimex(ペト ロリメックス)などがあります。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Dinh Co のガス生産処理工場 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(4)ベトナムにおけるLPガスの供給と需要および供給インフラ ベトナムにおけるLPガスの供給の主体は輸入が占めています。2007年の供給比率では 輸入が69%を占め、残りの31%が国内のDinh Coガス生産設備となっています。 2009年に操業を開始したDung Quat製油所は間もなく新しい設備が増強される予定で す、その結果、LPガスの国内生産は飛躍的に増強され輸入比率を低減することが期待されて います。 現在のベトナムにおけるLPガス基地はThi Vai基地を除くと何れも沿岸の高圧基地で、5 00トン以上の貯蔵能力を有する基地は29ヵ所、合計貯蔵能力は85千トンです。 なお、PVNの子会社PetroVietnam Gasは2013年にベトナム最大のLPガス基地であ るThi Vaiに84千トンの低温貯蔵タンクを建設いたしました。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ベトナムにおけるLPガスの需給バランス(2007年) |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Thi VaiにあるPVNの子会社PetroVietnam GasのLPガス基地 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(5)ベトナムのLPガス・マーケット ベトナムにおけるLPガス消費量は、1999年の222千トンから2008年の874千 トンまで年率16.4%で増加してきました。 中でも、家庭用LPガスの需要比率は、消費量全体の中で1999年の50%から2008 年には57%と高いペースで伸びました。非公式の統計ですが、ベトナムのLPガス消費は2 010年に120万トンに達し、2015年に150万トンに増加すると想定されています。 (dtinews.vn 2010) |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ベトナムにおけるLPガス需要量の推移 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(6)LPガスの充填、流通および容器管理 ベトナム戦争時、米国から大量のLPガス容器が持ち込まれ、戦後(1975年戦争終結) 廃棄されましたが、これらの容器が再利用されました。その結果として、家庭用LPガスは、 12kg(25lb)容器、そして業務用LPガスは45kg(100lb)容器で供給される ケースが多いようです。 家庭用ではユーザーが容器を購入した後、充填容器と残ガス容器を交換する「デポジット」 制度が採用されています。他の方法としては、ユーザーがLPガス販売店に電話などで注文 し、販売店が届けるケースもあります。その場合、市内ではおよそ30分以内に配達されるよ うです。このスピード感は販売店間の競争激化が要因とされています。 なお、予備容器を所有する家庭用ユーザーが少なく、ガス切れが生じた場合には充填容器が 供給されるまで、都市部では電気を、そして農村部では石炭や薪炭等のバイオマス燃料を使用 するのが一般的のようです。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
米軍が廃棄した多量の容器と販売店での容器集積作業 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(7)まとめ ベトナムが南北に分かれていた当時でも南ベトナムでは家庭および業務用のエネルギーとし てLPガス広く利用されていました。しかし、1975年4月にベトナム戦争が終結した後、 1986年までの約10年間はLPガスの普及は停滞していたと考えられます。 1986年にベトナムはドイモイ路線を発表し、LPガスの利用も活況を浴びることになり ました。ドイモイとは刷新を意味するベトナム語で以下の政策方針を進めることになりまし た。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ベトナムでは、調理方法が高熱を必要とするケースが多いことから火力の強いLPガス機器 が好まれています。このことは、当時の南ベトナム大統領府の地下にある厨房設備が日本製の LPガス機器であることからも想像ができます。 しかしながら、これまでのLPガスの需要開発は過去に使用経験のあるホーチミン市を中心 とする南部に偏っており、政府としてはベトナムにおけるLPガスの供給を全国に平均して行 うように管轄する企業(ペテック、ペトロリメックス等)に対して指導しました。 1980年代当時のベトナムにおけるLPガスは、南部のホーチミン市を中心に年間4万ト ン程度の需要であり、タイもしくはシンガポールから輸入したLPガスを容器に充填した後、 出荷をしていた時代を考えると、隔世の感がいたします。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
参考資料1 LPガスに関する行政機関 ベトナムのLPガスに関連する主な行政機関としては以下があります。
参考資料2 LPガス基準 石油分野におけるダウンストリームに関する一般的な技術基準は不明ですが、LPガスに関 する技術基準は科学技術省(Ministry of Science and Technology)が品質規格、試験方法、 輸入品の品質規格、生産、流通、検査および評価の責任、着臭、容器の基準等を定めていま す。 また、国家基準の多くはASTMあるいはJIS等の国際的な基準を引用しています。
ASTM:世界最大規模の標準化団体である米国試験材料協会(ASTM International(旧称 American Society for Testing and Materials:ASTM)が策定する規格です。ASTMは世界最大級の民間規格制定機関(非営利団体)で、約130分野の標準試験方法、仕様、作業方法、ガイド、分類、用語集を作成し、出版しています。 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(特別寄稿/御法川龍雄) |