LPGC WEB通信  Vol.5  2014.08.11発行 

IHSアジアLPGセミナー 報告 part.1
 本年の「IHSアジアLPGセミナー」は世界から18名の講演者を招き、6月9日~11
にシンガポールで開催されました。各講演者からは大変示唆に富んだプレゼンを聞くことが出
来ました。今月号ではその前半の8人目(アンソニー・ギルバート氏、エルガス)までの講演
について、概要をご報告いたします。
 9人目(ヴィノード・クマー氏、インド石油公社)から最後の18人目(ロン・ギスト氏、
IHS)までは、来月の9月号でご報告する予定です。



会場となったSwissotel The Stamford-Singapore
 
第1日目の講演

1 ナリマン・ベラヴェシュ氏  IHS チーフ・エコノミスト
「グローバル経済展望」
2 ウオルト・ハート氏  IHS シニア・ダイレクター NGLリサーチ
「世界のLPGマーケット概観」
3 高橋 良仁氏  アストモスエネルギー シンガポール支店長
「日本のLPGマーケット」
4 ポール・パン 氏  IHS ダイレクター
「中国でのプロパン脱水素参入」
5 アレクサンダー・シュトェアー氏 WLPGA オートガス・マネージャー
「アジア/太平洋地域におけるオートガス需要の見通し」
6 ポール・ケリー氏  ヴィトル LPGマーケティング・マネージャー
「発電向けLPG」
7 ジム・ウェブスター氏  フィリップス66 NGL部長
「米国シェールの統合と世界LPG貿易の復興」
8 アンソニー・ギルバート氏  エルガス ミッドストリーム部長
「オセアニア地域のLPGマーケット」
9 ヴィノード・クマー氏  インド石油公社 国際貿易副部長
「インドのLPGマーケット展望」
10 ジウォン・チュン氏  アジアOPIS マネージング・ダイレクター
「MBのLPG価格は、アジア・スポット価格のベンチマークになるか」
11 ロブ・ドナルドソン氏  タルガ・リソーシーズ ダイレクター
「タルガのLPG輸出インフラ-アジアLPガス市場への影響」
12 ジョン・スティーン氏  SAGE・ミッドストリーム VPビジネス・デベロップメント
「米国西海岸のLPG輸出ターミナル」

第2日目の講演

13 キーファー・ダグラス氏  IHS シニア・リサーチ・アナリスト
「アジアにおける家庭・業務用LPG需要の見通し」
14 ゼン・シュアン氏  広東油気商会 販売分析ダイレクター
「中国のLPGマーケット展望」
15 マット・ティーガードン氏  エンタープライズ NGL国際販売ダイレクター
「米国NGLの輸出-国際的な需要を満たす」
16 トゥリン・ミン・ホアイ氏  ペトロベトナム ガス・トレーディング
「ベトナムのLPGマーケット展望」
17 スコット・グレイ氏  IHS 海上輸送・シニア・ダイレクター
「VLGC船団と運賃」
18 ロン・ギスト氏  IHS NGLリサーチ・ダイレクター
「LPG価格の見通し」


 
 
IHS Asia LPG Seminar のパンフレット表紙
 
 グローバル経済展望
ナリマン・べラヴェシュ氏 IHS チーフ・エコノミスト
 
【プロフィール】マグロ―ヒル「スピン・フリー・エコノミックス」の著者。IHSで全体的な経済予測プロセ
スを指揮する。米国、欧州、日本、中国および新興国の経済展望とリスク分析の責任者である。北米、欧州、ア
ジア中南米、中東、アフリカ在住の専門家400人(200ヵ国超の経済、金融・政治展開)の著作を統括する。
「ブルームバーグ・ベスト」であり、2009・2010・2011年のブルームバーグ・トップ予測者にラン
クされている。ウオール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズをはじめ世界の一流紙に数多く引
用されている。テレビ、ラジオでも頻繁に登場し、世界エコノミック・フォーラム等でも精力的に講演をしてい
る。ペンシルバニア大学から経済学修士と博士、MITより理学修士を授与された。欧州、中東に住み数ヶ国語
を操る。


1.世界経済は回復基調だが、リスクが減っているわけではない。
2.負債を減らしている先進国は成長の余地を創り出す。特に米、英、独
3.構造改革中の新興国での停滞は成長の障害となり、中国をはじめとする新興大市場は期待
 を裏切り続ける。
4.国際競争力トレンドの大きな変化は特に北米等の先進国に追い風になる。

 世界のLPGマーケット概観
ウオルト・ハート氏 IHS シニア・ダイレクター NGLリサーチ
 
【プロフィール】IHS天然ガス液(NGL)グループ上席リサーチダイレクター。ヒューストン・オフィスを
本拠とし2006年パーヴィン&ガーツに入社。IHSは2011年にパーヴィン&ガーツを買収した。独自の
分野はビジネス分析・戦略、市場研究、予測、査定、法的支援である。主としてNGLとライトナフサの分野で
就業しているが、石油化学、代替燃料、バイオ燃料でも顕著な経験をもつ。世界的マルティ・クライエント研究
を部分執筆し、ワークショップの講師、セミナーを開催、トレーニングコースを開設する。パーヴィン&ガーツ
に入社前は、ユニオン・カーバイドとダウ・ケミカルで14年、オーエンズ・コーニング・ファイバーグラスで
2年働いた。プロセス・エンジニアリング、テクニカル・セールス、R&D、金融と戦略計画に在席した。学部
レベルで教えている。1986年ノートルダム大学よりケミカル・エンジニアリング学士。チャールストン大学
よりMBA。ウェスト・ヴァージニア大学よりケミカル・エンジニアリング博士号を受ける。公認プロフェッシ
ョナル・エンジニアでガス処理協会と米国化学工業会のメンバーである。

1.最新のIHS世界LPG展望は、LPG生産と輸出の大幅な増加であり、地域は北米と中
 東である。
2.アジアのLPG生産は増加が目覚しいが市場はショートで推移する。
3.ほぼ成熟した南アメリカの輸入マーケットと激しい競争にさらされる欧州により、米国産
 LPGはアジアに向かわざるを得ない。
4.LPG最終消費の最大の伸びが予測されるのは家庭・業務・石化である。
5.拡大する世界のLPG供給は地域貿易パターンに影響を与え続け、国際価格に「下げ」
 圧力をかけ続ける。



 

 日本のLPGマーケット
 高橋 良仁氏 アストモスエネルギー シンガポール支店長
 
【プロフィール】2012年よりアストモスエネルギーのシンガポール支店長。1991年大学を卒業、出光興
産の石油製品の国内販売に所属する。1994年に東京で供給・トレーディング部に異動。LPGビジネスとし
ては2001年出光LPG部のLPG輸入トレーダー課が起点となる。2006年三菱液化ガスと出光のLPG
子会社とのジョイントベンチャーである同社に移籍となる。同社は世界でも最大クラスのLPG企業であり、国
内シェア27%の最大のLPGインポーター、元売でもある。スエズ以東のトレーディングを担当し、トレーデ
ィングを世界規模に拡大するのを目標とする。

1.日本のLPGは既に成熟マーケットだが、災害時の頼みの綱として高評価により成長の潜
 在可能性をもつ。
2.日本政府はライフラインの有効なエネルギーとしてLPG整備を始めた。
3.米国からの輸入が顕著に増えパナマ運河拡張はこの流れを加速する。
4.モントベルビュー価格は輸出入価格に影響を与え日本の新規需要と既存の客への競争価格
 の促進を下支えする。

 中国でのプロパン脱水素参入
ポール・パン氏 IHS ダイレクター

【プロフィール】IHSの上席ダイレクター、IHS化学・中国の専務。中国化学業界と中国石炭化学の分析を
専門とする。各分野の石油化学で24年以上の経験を有する(技術、操業、処理技術、ビジネスプラニング、コ
ンサルタント業務)。その前はCMAI中国の専務、CMAIシンガポールのアロマティックスーアジアのダイ
レクター。CMAIには2003年4月入社。CMAIの前はエクソンモービル化学とシノペックのさまざまな
職階と職域に従事した。華南理工大学でケミカル・エンジニア学士、シンガポール国立大学同修士、ヒュースト
ン大学MBA。

1. 過去10年の急成長後、中国石化産業は原料の調達で窮地に立っている。企業は代替を探
 しているが、PDH(プロパン脱水素)は選択肢の1つである。
2.PDHの大波が押し寄せている。1PDHプラントは稼動を開始し、8プラントは建設中
 だ。それに10のプロジェクトが現在、様々な計画段階にある。今後5年で海外でも11プ
 ロジェクトの計画がある。中国PDHはすべて北米と中東からの輸入LPG・プロパンに依
 存する。
3.PDH生産能力の急拡大は国際的なLPG、プロピレン、プロピレン派生品の需給ダイナ
 ミックスに大きな影響をもたらす。中国のプロピレン供給は今まで3大国営企業に独占され
 てきた。PDHは中国マーケットで重要な役割を果たし国営企業の独占供給に挑戦する態勢
 である。PDHからの代替プロピレン供給は派生品セクターの成長を促進させる。
4.PDH開発のネックは原料の安定供給である。中国のLPG生産には限界がありPDHプ
 ロジェクトは中東・北米産の輸入LPG・プロパンに依存する。LPGベースのエチレンク
 ラッカーは中東で建設中でありPDHプロジェクトは北米で建設中なので、稼動すれば、世
 界のLPG供給はタイトになる。結果的にLPG価格高騰は中国PDH企業には不利になる。

 アジア/太平洋地域におけるオートガス需要の見通し
アレクサンダー・シュトェアー 氏 WLPGA オートガス・マネージャー

【プロフィール】2013年6月よりWLPGAオートガスマネジャー、オートガス市場の近代化と将来のオート
ガスの持続可能性を確保する任務を負う。6年間ドイツLPG協会(DVFG)に勤務してWLPGAに加わった。
その前にはエンジン開発の設計技師としてドイツ自動車業界で経験を積んだ。ドイツと南アメリカの血を引くとと
もにブラジル、チリ、パキスタンでの子供時代をすごしたことは経験域を国際畑にした。ドイツ語、英語、スペイ
ン語が流暢でポルトガル語とフランス語も話す。自動車業界、LPガス業界および当局との連絡の経験は世界的規
模で両業界の橋渡しと地域のロビー活動の調整を可能にしている。

1. WLPGAはオートガスを代表するユニークな国際組織でありUN、OECD等団体と交
 流を続けている。
2.業界から見る主要マーケットの詳細
 相対伸率     2006-2012 消費量23.1%
 最近の開発状況  FORDトランジット・コネクト・タクシー、DIエンジン
3.伸展の要因 
 技術開発・オートガス適合エンジン現代技術・OEMと無償改装
4.挑戦と好機
 将来マーケット伸展の業界見解・伸展取り込みに講ずる措置


会場風景
 
 発電向けLPG
ポール・ケリー氏 ヴィトル LPGマーケティング・マネージャー
【プロフィール】シンガポールが本拠地。2007年よりヴィトル。前職はロンドンとジュネーブで炭素排出ト
レーダー・取り扱い者。ヴィトルの前はシェル、ロンドンで企業向けリスク・マーケティングを担当。アイルラ
ンドコーク大学の商学・経済学士。ダブリンのスマーフィット経営校とフランスのレミ経営校の国際ビジネスの
経営学修士。

1.カリブ海ヴァージンアイランド2島に2基のプロパン火力(GE製)に90億円かけてプ
 ロパン供給インフラ(BOOT)を建設。電力低コスト化、環境対策というLPG顧客ソリ
 ューションの一環。
2.アジアにも同様な発電所の可能性は?場所、利益、リスクは?
3.市場開拓と需給のソースの産業の重要性は明白である。


 米国シェールの統合と世界LPG貿易の復興
ジム・ウェブスター氏 フィリップス66 NGL部長
【プロフィール】石油と天然ガスの分野で30年以上の経験を有する。2012年5月フィリップ66入社し現
職に着く前は、コノコフィリップスで鉛と天然ガスの先物取引を担当、その前は2002-2006年シンガポ
ールのアジア・サプライ・トレーディングの社長。コノコとフィリップス石油合併前にはフィリップス石油国際
原油売買・供給マネジャーとフィリップスパイプラインの社長。カンサス州グレイトベンド1955年生まれ。
1977年テキサス州セント・エドワーズ大学化学学士、1979年にはセントラル・オクラホマ大学よりMB
Aを取得した。

1.LPGプッシュ・プル世界ダイナミック
 米国 プッシュ:供給の拡大計画、インフラの充実
 世界 プル  :米の供給をマーケットに引き込む底流
2.フィリップス66の国際マーケットにおいて拡大する役割
 スウィーニーフラクショネ―ター 1:100MBPD 
 MBとスタットン・リッジへのパイプライン
 クレメンスの岩塩ドーム貯蔵
 サンドヒルズパイプラインに隣接
 フリーポートのLPG輸出のリーディングカンパニー


 オセアニア地域のLPGマーケット
アンソニー・ギルバート氏 エルガス ミッドストリーム部長
【プロフィール】オーストラリア、ニュージーランド全土のエルガスとBOCのLPGビジネスのLPG供給、バ
ルク配送、主要基地操業の責任者。エルガスはオーストラリアのリーディングLPG流通業者でオーストラリア主
要輸入基地とシドニーの6.5万トン洞穴備蓄のオペレーター。LPGの広い経験をもち、BOC、エルガス、シェ
ルの供給、流通の責任者の地位に就いた。現職の前は4年間シンガポールで、シェールガスLPGアジアパシフィ
ックのLPG供給チェーンマネジャーをした。シドニー大学から経済学士、オーストラリア経営大学院からMBA
を取得。

豪州とその周辺(ニュージーランド、パプア、太平洋諸島)のLPGマーケット
1.豪州LPG2013年動向
 消費          180万トン
 輸出(日本・中国・韓国)200万トン
 輸入(中東)       50万トン 
2.豪州LPG製品の動き2012年
 家庭・業務・産業     100万トン、伸びは低い
 オートガス         80万トン、絶滅品種
3.主要LNG/LPG生産計画2013-2020 
 建設中      LNG 7000万トン/LPG 200万トン
 プロジェクト   LNG 4100万トン/LPG 100万トン
4.LPG生産展望
 2016年から急拡大、2020年には550万トンへ
 ●プレリュードNLG(沖合生産・貯油出荷)
 ●イクシス(INPEX Browse、トタール等)
 ●チモール(LNG)
 ●豪州国内シェールガス
 ……等のプロジェクト要因
 ※この4つのプロジェクトについては、画像をご参照ください。
5.LPGの消費展望
 200万トンで横這い
6.LPGの輸入/輸出展望
 輸入  50万トンで安定
 輸出 200万トンから400万トンへ急伸(プレリュード、イクシスが貢献)

 
 
 
 
 9人目のヴィノード・クマー氏(インド石油公社 国際貿易副部長)から18人目のロン・
ギスト氏(IHS NGLリサーチ・ダイレクター)までの講演概要につきましては、次回の
9月号に掲載いたします。
(調査研究部/岩田)