LPGC WEB通信  Vol.3  2014.06.02発行 

 テレマティクス
Data Business for Connected Vehicles Japan 2014 講演報告

Ⅰ テレマティクスとは

 LPガス配送時における運行管理の重要性は近年ますます高まりを見せておりますが、手
軽かつ安価に運行管理が実現できる最新車載機器“テレマティクス“のLP業界への普及を促
すため、5月14・15日の両日にヒルトン東京で行われた当カンファレンスにおいて、L
Pガス配送の概要、配送時の運行管理の現状、車載機器の普及状況等を、ユーザー側の立場
から講演しました。

プレゼンを行う八鍬総括主任研究員(5月14日)

 そもそもテレマティクス(Telematics)とは、テレコミュニケーション(Tele-
communication=通信)とインフォマティクス(Informatics=情報工学)から作られた造
語で、カーナビやGPSなどのテレマティクス車載端末と無線パケット通信システムを利用
して様々な情報やサービスを提供している車載機器です。
 取得したデータを活用することにより、車両運行管理の効率化にとどまらず、CO2排出
量削減対策として求められているエコドライブの推進など環境対策や安全運転体制の構築、
車両稼動状況の把握による労務管理等の企業コンプライアンスのサポートが、従来の車載機
器よりも安価かつ手軽に実現できる優れものです。
 現時点では、カーナビと連動して天気予報、渋滞情報などを閲覧したり、電子メールをや
り取りするなど、あくまでも個別の自動車上での機能しか持っておりませんが、将来的には
高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems:ITS)の一端を担うものとして期待
されております。



テレマティクス・ASPシステム構成図(出典:矢崎エナジーシステム(株))

Ⅱ 講演の概要

 カンファレンス当日は、高額な参加費にも関わらず自動車メーカー、放送を含む情報・通信
関連企業、カーリース業、金融・保険業、アプリ開発会社等の担当者が主催者側の予定を上
回る130名程度集まり、活気ある意見交換を行っておりました。

会場入口
 
熱心に聴講する会場内の参加者

1.講演の目的

 本講演の目的は、LPガス配送時のエコドライブ推進による安全運転の徹底、燃費向上、
およびCO2排出量削減です。そのためにはまず配送センター(配送会社)における運行管
の実施が先決ですが、車載機器として強い味方となるのがテレマティクスと考えられます。
しかしLPガス業界においてテレマティクスの認知度は低いのが現状です。今回のような関
係者の集まる場で業界の説明を行い、積極的にアプローチをしてもらうことを念頭に置きま
した。

2.講演の内容

 講演内容は、LPガスとは普段あまり接触のない方々が対象となりましたので、LPガス
がどのくらいの世帯数において使用されているのか、流通段階別にかかるコストの構造はど
うなっているか等をお話しし、LPガスの配送方法を説明した上で、配送時のコスト削減が
課題のひとつになっていることを理解していただき、本題に入りました。
 なお、データはエルピーガス振興センターで調査した結果を基にしております。

(1) 配送方法別世帯数比率
  ユーザーへの配送方法は、自社配送(自社手配の配送会社への委託含む)が約6割、仕
 入先等の配送センター(配送会社・共同配送含む、以下配送センターという)が約4割と
 なっていました。自社配送に関しては、車載機器を使用しての運行管理まで行う事業者比
 率はかなり低いものと考えられますので、テレマティクスを導入する可能性があるのは配
 送センターと想定されます。
  ① 配送センターにおける事業者登録比率
    約4割が営業用(緑ナンバー)、約6割が自家用(白ナンバー)でした。
  ② 配送センターにおける運行管理担当者専任比率
    3分の2の事業所で運行管理担当者を選任しておりました。このことは、配送センタ
    ーでは自家用にもかかわらず運行管理を実施している事業所が少なからず存在してい
    ることを表しており、いずれは緑ナンバーへ移行する用意があることを示しておりま
    す。

(2) 配送センターにおける車載機器導入比率(業務用無線含む)
  配送センターにおける車載機器導入比率(業務用無線含む)は、4分の1の事業所に留
 まっており、まだまだ普及状況は低いといえます。
  全国の配送センター数は約2,000箇所であり、1事業所あたりの平均配送車両所有数
 は8.3台でした(シリンダー配送車)。つまり全国の配送センター車両所有数16,600
 台のうち、4,000台程度にしか車載機器が備わっていないことになります。

(3) 車載機器別導入比率(業務用無線含む)
  ではその4,000台にはどのような車載機器が搭載されているのでしょうか。車載機器
 は組み合わせて搭載される場合もありますので、その比率を示したのが図の円グラフです。
  多い順にデジタル・タコグラフ(35.2%)、ドライブレコーダー(15.0%)、業務
 用無線(13.4%)、アナログ・タコグラフ(11.9%)となっており、テレマティクス
 は単体では5.5%、ドライブレコーダーとの組み合わせが4.0%となっていました。
  車載機器別に比較しても(図の棒グラフ)テレマティクスは11.1%と低く、普及度は
 まだまだといったところでした。


車載機器搭載比率(事業所(配送センター)ベース)

(4) LPガス販売事業者によるテレマティクス導入事例
 まだまだ普及度は低いものの、すでにテレマティクスを導入してその効果を確認している
LPガス事業者も存在しており、ここでは配送センターを4ヵ所、配送車両を14台所有し
ている卸売小売兼業事業者の事例を説明いたします。
 この事業者は、エコ経営の一環として配送におけるCO2削減に取り組んでおり、LPガ
ス車4台を含む14台の全車両にテレマティクスを搭載しております。
 初期費用は総額で115万円、システム管理料として月額総額19,700円(いずれも
税別)を負担しておりますが、エコドライブやアイドリングストップによる効果で燃費が導
入前の2.8㎞/ℓから導入後3.3㎞/ℓと向上し、燃料費の削減額が年間150万円とな
り、1年で初期費用を回収したとのことです。
 また、急発進急加速等の危険運転の激減が達成されており、まずは大成功といったところ
でした。しかしながら運行管理はテレマティクスを導入したからといってすぐに上手く行く
ものではなく。運行管理者の力量や、配送担当者の協力が必要であるのは言うまでもなく、
この事業者もその点を強く意識しているとのことでした。
 次の表はこの事業者の運行管理シートですが、通常の車両別走行距離、給油量、平均燃費
の他にCO2排出量およびその前月比もアウトプットできるようになっており、エコ経営のひ
とつの指標としているとのことです。

LPガス配送事業者の配送低炭素化の取組
テレマティクス導入例
 
運行管理シートの例

(5) 中核充てん所への導入について
 全国で344ヵ所に所在する中核充てん所へのテレマティクス導入も期待されるところで
す。中核充てん所はその役割の一つとして「国等から重要施設への配送指示があった場合の
優先対応」がありますが、緊急時にはテレマティクスのGPS機能により配送車の位置確認
が即座にできることや、被災地を走る車のカーナビデータを元に通行可能なルートを素早く
検索するなどして、速やかな対応が可能となります。
 もちろん平時においても安全運転上でのヒヤリハットマップの作成等様々な活用方法が考
えられ、他の車載機器ではできない管理が手軽に可能となります。

(6) 結び
 このカンファレンスは、前述いたしましたとおりテレマティクスの普及を目指す自動車メ
ーカー、システム開発会社、通信関連企業、金融・保険業等が、異業種間で提携をすること
によって市場を大きくすることを目的として開催されました。
 その中で、実際に実現可能で、かつ普及がこれからであるLPガス業界の話は参加者から
かなり注目を引いたようです。講演後、18社からの問い合わせおよびアポイント要請があ
りました。主催者側からもカンファレンス後のアンケート結果で「最も有益だったプレゼン
テーションであった」との連絡いただきまして、まずは胸をなで下ろしている次第です。
 これを機会にLPガス業界への新規アプローチが活発となり、高性能なテレマティクスの
システムが廉価に流通することでエコドライブや安全運転が浸透し、その結果、配送センター
はもとより販売事業者においても経営合理化・効率化や環境対応が図られることを期待してお
ります。
(調査研究部/八鍬)
(ご参考) 
「Data Business for Connected Vehicles Japan 2014」プログラム
http://www.telematicsupdate.com/connected-vehicles-japan/jp-conference-agenda.php