LPGC WEB通信 Vol.2 2014.05.12発行
|
温泉街の生ごみによるバイオガス発電と 高付加価値農産物の栽培事業の先進事例 |
「生ごみによるバイオガス発電と高付加価値農産物の栽培事業の先進事例」の見学会に参 加いたしました。LPガスの新たな用途開発という期待もあり、大変興味深い事例です。本 稿ではその概要を紹介いたします。 今回の見学会は日本LPガス協会のバイオマス燃料専門小委員会の主催で、6名の参加者 が新潟県村上市瀬波温泉の(株)開成を訪れました。施設の名称は「瀬波バイオマスエネルギ ープラント及び瀬波南国フルーツ園」といいます。 また、プラントメーカーである大原鉄工所(新潟県長岡市)も訪問し、技術的な背景につ いても調査いたしました。 |
|
1.バイオガス発電とは バイオガス発電とは、下図のように下水汚泥や食品残渣、生ごみなどを発酵させてバイ オガス(主成分はメタン)を発生させ、そのバイオガスを燃料としてガスコジェネやガス ボイラーを運転し、電気エネルギー、熱エネルギーなどを取り出すものです。 バイオガス発酵ではある程度の温度が必要であり、また、安定した発電を行うためにも 助燃用、増熱用としてのLPガスの利用が考えられています。 |
|
2. 同プラントのこれまでの経緯 (1)平成15年~ 村上市の「地域新エネルギープラン」に基づき、瀬波温泉旅館協同組合が「瀬波温泉未 利用エネルギー活用熱供給システム事業調査」を行い、多角的な利用の可能性が十分あ ることがわかる。 (2)平成20~21年 「瀬波温泉熱利活用温室ハウス及びバイオマス発電事業化」のFS策定委員会を立上げ 綿密な調査を実施。上記に基づき、事業化計画を策定。 地域資源利活用型温室ハウスを2棟建設、南国果樹栽培を開始。 (3)平成24年~ バイオマスエネルギープラント竣工。温室ハウスへ温熱供給開始。 同年6月、バイオマス肥料(液肥)による農産物の作付けを開始。 同年10月、東北電力と系統連系を行い、送電開始。 FIT(固定買取制度)認定済みのメタン発酵ガス化発電設備の国産第1号となる。 |
温室 |
温室内で順調に育つ作物
|
写真中央がバイオガス発酵槽
|
3. 設備仕様と稼働状況 このプラントの処理量は4.9t/日で、不純物等の問題から下水汚泥は扱っていません が、食品残渣がほぼ安定して入手できるので、コジェネの運転もほぼ順調に稼働している とのことです。 また、投入されたバイオマスがバイオガス、液肥、堆肥となり、廃棄するものはなく、 すべては、エネルギーや肥料などに再利用される仕組みとなっています。 |
瀬波バイオマスエネルギープラントの主な設備仕様と稼働状況
|
瀬波バイオマスエネルギープラントのプロセスフロー図 |
4. 成功要因 本事業は現在、軌道に乗っており、他県からも多くの農業関係者等が見学に訪れていま す。成功している要因を推察するとおよそ次のような点が挙げられるのではないかと思わ れます。 (1)本事業は補助金の依存率ゼロの自主事業である。今まで数多くのバイオマス実用化 事業が試行されたが、補助金がなくなると事業継続ができなくなる例がほとんどである。 同社は最初から補助金に依存しない前提で事業化を検討したようである。 (2)FS段階から、どうしたら収支プラスの事業が可能となるかを、海外の事例等も綿 密に調査しながら充分な検討を重ねたようである。 (3)低コストの改造型小型発電設備が導入できた。 (4)当初から食品残渣の回収、製造(バイオガス、電気、肥料)、販売、利用まで他者 に依存せず、事業参加者だけで運営しており、いわゆる自己完結型である。 (5)事業収入のうち、東北電力へのFIT売電による収益(年間7百万円以上)の比率 が高い。 5. LPガス利用の可能性 発酵の期間は約1ヶ月、発酵温度40℃を維持させるため加温槽を設けています。食品 残渣の原料供給は安定しているとのことですが、発電機からの排熱だけでは不足する場合 の補助熱源および温室用熱源として、ボイラーで温水を供給するシステムとなっています。 このボイラーの熱源(input 418MJ/h)としてLPガスが利用されています。 また、ガスコジェネは現在バイオガスのみで発電していますが、出力アップあるいは安 定運転のための増熱用としてのLPガス利用も考えられるところです。 |
発酵槽加熱用のLPガスボイラー |
バイオガスを燃料としているガス発電機 |
温室ハウスに隣接した瀬波南国フルーツ園のフルーツアイスコーナー |
6. プラントメーカー 今回の現地見学会では、プラントメーカーである大原鉄工所を訪問し、技術的な意見交換 を行いました。以下のとおりです。 (1)大原鉄工所の取組の一つとして、市販のパッケージ型ディーゼルエンジン発電機のエ ンジン部を改造して、ガスエンジン化することにより、低コスト・小型のバイオガス発電 機を開発している。 その一つの例が(株)開成の瀬波バイオマスエネルギープラントである。 (2)既に国内で20数か所の発電プラントを設置している。 (3)増熱用としてのLPガスとの混合使用については、余り認識はなかったが、興味を示 した。 (4)また、「国は災害対策の一環として、公共施設等に常用のLPガス自家発電システム の設置を促進するため、補助金制度を設けている。LPガスとバイオガスとの混合利用を 検討することにより、この補助金制度を活用できる可能性がある」と提言したところ、大 変興味を示した。 7. おわりに 本年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、分散型エネルギーシステ ムにおける再生可能エネルギーの利用促進の項で「………さらに、下水汚泥、食品廃棄物な どによる都市型バイオマスや耕作放棄地を活用した燃料作物バイオマスの利用を進める」と しております。 今後もバイオガス発電が拡大するものと思われますが、助燃用や増熱用としてのLPガス の利用をさらに図るためには、プラントメーカーを巻き込んでの技術開発が重要だと感じま した。 |
(技術開発部/広端)
|