LPGC WEB通信  Vol.45  2017.12.11発行 

WLPGフォーラム及びWLPGAマラケシュ大会の報告(後半)

 

 2017年のWLPGフォーラムが10月4日(水)から5日(木)にモロッコの古都「南の真珠」と呼
ばれてきたマラケシュのPalais des Congres de Marrakechで、モハメド6世王がパトロンと
なり、「 Fuelling New Markets(新しい市場にエネルギーを注ぐ) 」をテーマに開催されまし
た。フォーラムの参加者は48ヶ国から159団体/企業の282名となり、併設された展示会場を
含めた総来場者数は約1,800名でした。尚、展示会には119社が参加し、日本からは
I・T・O㈱、カグラベイパーテック㈱、理研計器㈱の3社が出展されました。また、フォーラ
ムに先駆けまして10月1日(日)から3日(火)にWLPGAの2017年マラケシュ大会が開催されま
した。10月3日に開催されたWLPGAの理事会と年次総会におきまして、弊振興センターの増
田理事長がWLPGAの理事に再任されました。
 2018年のWLPGフォーラムは10月2日(火)~4日(木)に米国のヒューストンで開催されま
す。WLPGAは皆様のご参加をお待ちしています。

 今月号ではフォーラム第2日目の10月5日の講演内容をお届けします。



 フォーラム会場:パレス・デス・コングレス・ドゥ・マラケシュ
(Palais des Congres de Marrakech)


 
 展示会場の様子

 
 年次総会

 



<第30回世界LPGフォーラム マラケシュ大会>

会 場:パレス・デス・コングレス・ドゥ・マラケシュ
    (Palais des Congres de Marrakech)
日 程:2017年10月4日(水)~5日(木)
場 所:モロッコ マラケシュ
テーマ:Fuelling New Markets(新しい市場にエネルギーを注ぐ )

 
 フォーラム会場



講 演 内 容

10月5日(木)
9:30-11:00 セッション3:潜在的可能性を捉える
                 (Seizing the Potential)


進行:ニック・ブラック エルガス社、オーストラリア&ニュージーランド
    Nic Black, Elgas, Austraria & New Zealand
   LPGの主な用途は、暖房/調理/自動車燃料である。LPG産業を将来に向けてどうする
   か?技術革新と代替が必要である。今から各講演者がサクセスストーリーと名案を紹介
   する。

(個別講演)
 クリストフ・カサボンヌ エンジン社、フランス
 Christophe Casabonne, Engine, France

   発電用プロパンのミャンマー事例を紹介する。LPGは柔軟でクリーンなエネルギーで軽
   油/天然ガスより安い。LPGは天然ガス発電までの橋渡し役となる。ミャンマーは天然ガ
   スを埋蔵しているが開発に時間を要し、それまでにも電気が必要なのでLPG発電が橋渡
   しとなる。
   米国の2,700万トンのLPG輸出は数年後に4~5,000万トンになる。LPGはLNGよりコス
   トが安いメリットがあり、LPG燃焼エンジンも数多くある。また、LPG輸送船はLNGの
   数倍あり、川でも運べる。ミャンマーでは1日に6~8時間停電するのですぐに電力が必
   要である。今、ティラワに240MW発電所計画がありLPGを26万トン使用する。VLGC
   で輸入しフローティングストレージに貯蔵し、陸上の15,000トンの受入タンクにシャト
   ルで輸送する。タービンはGE製である。
   事業コストの内、Supply Costが80%、Storage Capital Cost 5%以下、Power Plant
   Cost 9%、OPEXが10%となっている。バングラデシュ/フィリピン/インドネシアにも
   同様の計画がある。

 ロベルタ・ブレナー ウルトラガス社、ブラジル
 Roberta Brenner, Ultragaz, Brazil
   ウルトラガス社は80年の歴史を持ち、木材燃料からLPGに転換していった歴史である。
   その過程で、安全で近代的なシティライフを消費者に訴え、今や顧客数は百万に達す
   る。他社との差別化をはかるために青色のシリンダーを導入し、配送トラックは青/黄/
   オレンジに塗装した。青はその後、ウルトラガスのトレードマークになった。商店用に
   スモール・バルク・システムを開発したように、持続可能性をベースとして事業活動を
   行っている。現在は自動化の時代が到来した。インターネットで注文を受け、デジタル
   のマルチチャンネルとテレビチャンネルで360°交信が可能なシステムを導入している。

 アシュトシュ・グプタ インド石油公社、インド
 Ashutosh Guputa, Indian Oil Corporation, India
   発展途上国にとってLPGは社会的な価値がある。インドでは政府が5年間で1億人にLPG
   を配る計画を実行した。インドには上流層、中間層、下位層があり、下層階級にはLPG
   補助金が必要である。しかし、それまでは下層階級にはLPGを購入する金がなく、補助
   金を受け取れなかった。そこで、シリンダーの使用本数に制限を設け、あらかじめ購買
   者の銀行口座に補助金を送金するスキームをつくった。LPG代そのものは市場価格であ
   る。まず購入希望者に識別番号を与え、補助金を送金、その後LPGが配送され補助金を
   受け取った購買者が商品代を支払うスキームである。シリンダーの購入には無利子の融
   資がある。一方で上流層には補助金を返上させた。
   今後5~6年で輸入が1,000万トン増える見通しなので、輸入ターミナルが追加で5~6
   必要となり、パイプラインを4,000km施設し、充填所を50カ所増設、配送トラックは
   更に10,000台必要となる。

 タッカー・パーキンス プロパン教育研究協会、米国
 Tucker Perkins, Propane Education & Research Council, US
   農業市場における将来の燃料としてプロパンを訴え、全米で10億ガロン使用されてい
   る。装備コスト、導入コスト、操業コストの安さにくわえ、クリーンさ、持ち運びやす
   さ、軽便さのメリットをコミットするキャンペーンを実施し、認識を変え、時代遅れの
   イメージを変えた。キャンペーン名は”Propane Can Do That”である。キャンペーン
   では、多様性も伝え、出版物への広告、テレビ/ラジオ広告、業界紙広告で行った。農
   業ビジネスの拡大に貢献したい。今後も消費者、機器ディーラーとの関係を構築してい
   く。また、農業用以外にも、発電機、自動車等でも拡大できる。

 メリエム・ラフロウ インフォミネオ社、モロッコ
 Meriem Lahlou, Infomineo, Morocco
   モロッコにはオートガス市場がなく政府と一緒に開拓する。家庭用は補助金がでるブタ
   ンのみである。LPGは全て輸入されている。LPGをいかに効率的に利用できるかが課題
   である。LPGを自動車燃料に使用できないか、他国のオートガスの状況も確認してい
   る。要は規制であり、マーケット0から教育を始め、ステークホルダーを説得し、消費
   者の関心を高める。市場ではプロパン12%、ブタン88%で、プロパンに補助金がない
   からブタンの比率が高い。人口増と用途多様化でブタンの消費が増えた。今後の課題
   は、補助金の悪用をいかに防ぐかである。
   自動車燃料のガス使用が法律で定められていないので、規定する必要がある。
   COP2017をモロッコで開き、大気の改善に強い燃料として機運が高まる。例としてク
   リーンな交通手段であるトラムを拡大する。人口増、車利用増、観光客増に伴い大気改
   善策としてオートガスを活用したい。プジョーの工場がモロッコ国内にあり、LPG車を
   製造できる可能性はある。オートガススタンドの建設も必要であり、既存の産業用ガス
   スタンドをオートガス用に拡大する。成功例としてトルコ(オートガス価格が安い)、イ
   タリア(オートガスのパイオニアであり、補助金で50%安い)、アルジェリア(83年に導
   入、一時低迷したが消費増に転換)を参考にした。

11:30-13:00 セッション4:多様性を利用する 
                  (Harnessing Diversity)

進行:オラポジ・ウィリアムズ OVHエナージー・マーケティング社、ナイジェリア
   Olaposi Williams, OVH Energy Marketing, Nigeria
   多様性がいかに事業の拡大と収益に役立つか。内部の改革が成長のドライバーである。

(個別講演)
 エリフキァン・ヤズガン アイガズ社、トルコ
 Elifcan Yazgan, Aygaz, Turky
   “The HeForShe Campaign”とは男性に女性のパートナーになってもらい、女性の地位
   を向上するキャンペーンである。キャンペーンの結果、13億会話と1.5百万のコミット
   を得た。経済力を与える/政治へ参画させる/安全とセキュリティを進める/性差別暴力へ
   対抗することが重要である。

 ケスニア・コールツニコヴァ G200協会、スイス
 Ksenia Khoruzhnikova, G200 Association, Switzerland
   G200プログラムに200国が参加した。新しい世代は、国際性と時間の変化と成長に挑戦
   する。議員の立法活動に加えてもらい、若いプロフェッショナルが参加し議論する。お
   互いから学び新しい理論が構築され、よりよい解決に活かす。G200フォーラムとして
   開始し12年の歴史がある。2017年は200国の4,900名が参加した。企業の役員
   (Executive)向けに同様のフォーラムの要望があり、G20Y Associationを立ち上げ、
   G20Yサミットを開催する。
   35歳以下が人口の51%であり、議員の割合は1.6%(モロッコでは人口の56%、議員の
   9%)。若者の失業率が高まっていることが問題である。

 ヤニス・ラマリ ユースID & TBS、フランス
 Yanis Lammari, Youth ID and TBS, France
   学生によるLPG車キャンペーンである。CFPB(フランス・プロパン・ブタン協会)に依
   頼し、学生がLPG車での旅行内容を報告すれば、LPG車の宣伝になる。フランスからス
   タートして、各国でも展開している。
   企業トップ/政治家と面談し、若者の利用拡大を訴えた。若い人には夢があるが金がな
   いので、協力してほしい。

 ベネディクト・ホスクルドソン シーフォーオール、米国
 Benedikt Hoskuldsson, SEforALL, US
   Sustainable Energy for All(持続可能エネルギーを皆に)として再生エネルギー増とエネ
   ルギー効率の向上を図り目標を達成する。世界で30億人がクリーンエネルギーを利用で
   きない現状である。省エネに様々な分野で取り組んでいる。女性平等運動にも取り組
   む。女性と貧しい家庭でクリーンエネルギーの利用を高める。2017年にWork Stream
   を3つ作り2019年に見直す。電気が使えない人には分散型電源で電気を与える。

 ニッキー・ブラウン ウィメン・イン・LPG・グローバルネットワーク、フランス
 Nikki Brown, Women in LPG Global Network, France
   女性と若者がLPG産業には足りない。女性と若者には技術差(スキルギャップ)があり、
   今後さらに差は拡大していく。女性と若者をLPG産業で活用する活動を行うのが
   WINLPGである。2017年は3ヵ国で5つのネットワーク・ミーティングを開催し512名
   が3つのワークショップに参加した。

14:30-16:00 セッション5:アフリカの鍵を開ける 
                  (Unlocking Africa)

進行:ブレイズ・エジャ オリックス・エナージー社、スイス
   Blaise Edja, Oryx Energies, Switzerland

(個別講演)
 キンボール・チェン グローバルLPGパートナーシップ社、米国
 Kimball Chen, Global LPG Partnership, US

   アフリカへの投資については、アフリカ共通の特性を理解し、現地化するものを判断す
   る。市場の安定性/政治的支援と政策の安定/投資環境があって、投資できる。さらに、
   経済性、規模、売買の適正価格、競合と協働、国際ビジネス協力の要素が加わる。支援
   する開発銀行が必要で、開発国政府の支援を要する。
   次の20~30年は、LPGはクリーンエネルギーとしてアフリカをリードする役割を担う。

 ジョゼフ・エロモセール ナイジェリアLPG協会、ナイジェリア
 Joseph Eromosele, NLPGA, Nigeria
   ナイジェリアLPG協会は2003年に設立され100のメンバーがいて、LPGを安全に低価で
   供給するのが役目である。
   ナイジェリアのガス生産の85%が随伴ガスで、世界第9位の埋蔵量を持つ。LPGの2016
   年の国内需要は50万トン、生産量は450万トンなので、ほとんどが輸出である。LPG生
   産は年間1,000万トンまで可能。人口の5%がLPGを調理に使用しており、大半は灯油と
   木炭である。これは、過去政府が灯油に補助金をだして優遇してきたためである。
   LPGを低所得者層に供給することが当協会の目的である。温暖化対応、大気汚染対策に
   家庭用LPGの普及対策が必要で、農村経済の活性化にもつながる。また発電用LPGも導
   入している。現在200万トンのLPGをガスフレアとして燃焼しており、1,000万MWの発
   電に相当する。さらに工業用に活路がある。産業用/商業用は、電力不足で発達できな
   かった方面での新しい用途である。自動車燃料は1日に2,500万~3,500万ℓのガソリン
   が消費されている。これをオートガスに変えたい。現在ある1,600万台の自動車は大き
   な可能性である。安全確保のため規制強化も必要である。
   LPG活用に関し政府は包括的方針をだし、2年間で様々な政策を実施してきた。公害対
   応であり、1億人の雇用問題であり、今後も外国からの投資を誘致する。

 ベッセム・エノンチョン コサン・クリスプラント社、カメルーン
 Bessem Enonchong, Kosan Crisplant, Cameroon
   カメルーンの国内需要は家庭用が84.3%である。LPG事業としては、充填所
   (Filling Station)/貯蔵設備/輸送とあるが、今日はコンテナを活用した充填設備
   (Filling Plant)の例を紹介したい。
   コンテナの中に充填設備を設置しシリンダーに充填するContainer Filling Plant (CFP)
   は1987年に最初のプラントを開設した。コンテナを移動できるので有効である。コンテ
   ナは固定設置タイプと移動式タイプがあり、コンテナを移動させれば簡単に何時でも何
   処でも充填することができる。コンテナにはいろいろなサイズがあるので、充填規模と
   サイズを調節できる。CFPは自然災害(洪水)にも耐えられた。

 ナビル・メドコウリ ビボ・エナージー・モロッコ社、モロッコ
 Navil Medkhouri, Vivo Energy Morocco, Morocco
   年間一人当たりLPG消費量は、アフリカ平均が11kgで、北アフリカでは55㎏、他アフ
   リカで2.3㎏である。モロッコではLPGの25%が農業用(灌漑と暖房)で使用されてい
   る。モロッコの一人当たりLPG消費量はアフリカでは第1位であるが、農業用の他はほ
   とんどが家庭用なので、まだ伸びる余地がある。サハラ以南は人口が多いのでLPGが伸
   びる余地が大きい。伸びていないのは所得が少ないためで、価格が重要である。ターミ
   ナル、道路といったインフラの整備も重要であり、社会政策/税制を中心とする経済政
   策/環境政策/健康政策といった政府の政策と、シリンダー/貯蔵/パイプライン/工場への
   投資、サプライチェーンとディストリビューションルートの確立も重要である。これら
   が整えば、家庭用、農業用、産業用、発電用、輸送(オートガス)で伸びる機会がある。
   政策(規制、補助金)、インフラ整備、金融支援が最も重要である。


(パネルディスカッション)
 ナビル・メドコウリへの質問:モロッコでの成功の鍵は?
   2つのベクトルがある。1つ目は民間と国のインフラ面での協力である。モロッコには
   5万トンの地下貯蔵設備が2基あり、国のコミットメントがあり民営化にローカルで対
   応できた。2つ目のベクトルは補助金である。3番目の地下貯蔵タンクは20万トンの能
   力があるが、政府が補助を出して民間セクターが建設した。34ある充填所も民間と国で
   充実してきた。規制緩和も必要な鍵である。

 キンボール・チェンへの質問:アフリカでの法執行状況について?
   法律の執行が適切に行われているかを判断するには、法を即時に執行できているか、誰
   にも平等に執行できているか、法の執行に一貫性があるか、を確認する。安全の確保と
   マーケット構造の維持には適正な法執行が必要である。

 ジョゼフ・エロモセールへの質問:ナイジェリアの補助金について?
   ナイジェリアでは特別ファンドとしてシリンダーを貧しい家庭に配布している。灯油を
   使っている貧困家庭には重要である。

 ベッセム・エノンチョンへの質問:CFPについて?
   カメルーンにある10地域中の6地域でCFPが利用されている。政府はCFPの10全地域へ
   の普及を狙う。政府は鉄道によるLPG輸送も狙うが、民間は小さな投資から始めるべき
   で、小規模なCFPは適している。

 
(調査研究部/亀川 泰雄)