LPGC WEB通信  Vol.26  2016.05.10発行 

【特別寄稿】九州地方液化石油ガス懇談会の10年を振り返って


 

                      福岡大学 商学部 教授 笹川 洋平 氏

 平成28年熊本地震でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りしたしますとともに、被
災された人びとにお見舞い申し上げます。併せて、1日も早く日常の生活を取り戻されること
を心よりお祈り申し上げます。

 私は、平成17年度から今日(平成27年度)に至る11年間にわたり、一般財団法人エルピ
ーガス振興センターが実施している「九州地方液化石油ガス懇談会」(以下懇談会という)
の学識経験者委員として参加している。この懇談会は、地域のエルピーガスの消費者並びに
業界・行政の関係者に参加を呼びかけて毎年1回の頻度で開催されるものである。主たる参
加者は、九州経済産業局、資源エネルギー庁、九州各県エルピーガス協会代表者、各県の消
費者代表者、卸売業界と関係する各県の行政関係者である。当懇談会の議題は、エルピーガ
ス需給動向、エルピーガス使用上の保安・安全対策の啓発、エルピーガス流通の合理化の取
り組み、消費者との公正な取引の在り方等、その議題は広範囲にわたっている。
 そしてLPガス業界の代表委員(各県LPガス協会員)は、当懇談会を通して自らへ注がれ
る社会の目を意識し、自らが自由競争の担い手であると同時に、公正・公平な価格形成の責
任ある担い手として、さらにはエネルギーのベスト・ミックスという国家、国民的見地から
自らのLPガス事業を再認識し、社会的重責を自覚する上での格好の場として、当懇談会の存
在を認識してもらいたいと考えている。


 当初、私の専門は流通論であり、LPガス業界についてほとんど何も知らない状態で懇談会
の委員をお引き受けした。当初は、中小事業者の経営のお話をすればよいのかなと考えてい
たが、懇談会の出席に備えて予習を兼ねてLPガス業界のことを勉強してみると、都市ガス
や電気と違って料金は一般の取引分野と同じ自由料金制で供給されていることや、販売店と
消費者のトラブルが多い業界であること、それにもかかわらず分散型ガス体エネルギーとし
ては先進的ガス機器の開発力など将来性が有望である業界であることを知って興味をひかれ
ていったことを記憶している。

 以下は、過去10年間における懇談会において交わされた消費者委員とLPガス協会委員の
意見交換のトピックとその大まかな内容を私の言葉でまとめたものである。10年間の懇談会
で交わされた内容は本当に広範囲にわたっており、ここで取り上げるトピックはごく一部で
あることをお断りしておきたい。同時に、この10年の間にわが国は大きな災害を幾度か経験
し、困難な状況からの復旧・復興に取り組む中でLPガスは「災害時の最後の砦」として評
価を向上させており、結果としてLPガス事業に関係する人びとの意識も、公器としてのL
Pガス事業、その社会的責任の在り方に業界として積極的に対応しようとする高い意識が感
じられる業界である点にも言及するつもりである。


◆LPガス料金と消費者の不信感
 一般論としていうと、ガス料金は水道、電気と同じく生活ライフラインの1つであるから
公共料金、すなわち認可制の全国(あるいは地域)一律料金だと理解されているのが大方の
見方だろう。しかし、過去10年間の九州地方液化ガス懇談会に学識委員として出席させもら
った印象としては、消費者に対するLPガスの基本的な取引の情報が十分に周知されていない
ことである。その結果、都市ガスや電気と同じく人びとの生活(インフラ)をなすエネルギ
ーであるにもかかわらず、LPガスは公共料金でないことや、割高感があることから、不満足
感を高じさせてしまうのではないだろうか。
 それだけではない。消費者がLPガスの料金体系など質問をしても書面をみろといわんばか
りの対応で、丁寧に対応されないというのも毎度、消費者委員から聞かれる声である。LPガ
ス料金が自由料金であるべきか、公共料金であるべきかの議論は区々あるかと思うが、いま
取り組むべき課題はLPガス料金の正確な情報提供とその周知徹底をはかることであろう。消
費者の誤解と不信感は、10年前と比べて状況が改善されているようには残念ながら感じられ
ない。他方、料金表を戸別配付し請求書を基本料金と従量(使用ガス量)部分に別々に記載
する販売店や、機器、配管費用についても、請求書に別段で記載する3部料金制を採用する
販売店など、請求内容をできるだけ明確化するための努力を惜しまない販売店もあると聞く
が、残念ながら少数派という印象を持っている。

 消費者の料金に対する不信感をなくすためには、LPガス販売事業者が消費者との個々の契
約関係のレベルで自店の料金体系を丁寧に説明、徹底周知する以外にはなくすことはできな
い。LPガス販売店は個々の消費者と向き合って契約内容の説明責任を地道に果たす以外に
は方法はない。国や県、市町村などの行政やエルピーガス振興センター等の民間団体の業界
の近代化へ向けた種々の取り組みが有効性を発揮できるのは、個々の取引関係が透明性をも
っているからである。
 その意味では、LPガス料金にも都市ガスや電気と同じく「原料費調整制度」を採用する
販売店も登場していることは注目される。なぜなら、消費者に対して翌月の料金動向を事前
に提供し、消費者の知る権利を前もって満たすことになるからである。
 私がLPガス業界の深刻な問題と考えている点は、消費者委員からの料金の苦情やトラブル
が絶えない中でLPガス業界が全体として「不良販売店」対策をとられてしかるべきである
にもかかわらず、「不良販売店」はなくならない、いやなくせない業界の体質のようなもの
である。もちろん料金のトラブルの中には、消費者の初歩的な理解不足によるものもあるだ
ろう。しかしそれは消費者の瑕疵ではなく、消費者が基本的な事項すら理解していないにも
かかわらずLPガス供給の契約をとるLPガス販売事業者の姿勢こそ問題がある。そのような
「不良販売店」を矯正できない、あるいは排除できないLPガス業界の体質も問題であるとい
わなければならない。


◆「無償配管」という奇妙な慣行
 LPガス業界の特有の取引慣行として「無償配管」の制度がある。もちろん、配管費は無償
ではなく月々の請求額に含めて時間をかけて徴収しているのである。それを「無償」と称し
てきたのは偽称行為である。近年では「無償配管」という呼称自体、問題視されるようにな
っているが、長い間、LPガスの業界慣行として弘通していたことは、消費者を軽視にする体
質が存在したことの証左であろう。

 かつては「無償配管」の慣行は、月々の料金に上乗せして支払いをうける割賦販売の形を
とることによって消費者の初期費用の負担を軽減する「LPガス業界の智恵」として認められ
ていたかもしれない。しかし、それを「無償」と呼んでよいはずはない。かつて、契約関係
よりも人間関係が取引において優先されたような時代にあっては、消費者は月々の請求額に
疑問があっても、販売店との関係を優先してトラブルにならなかったかもしれない。しかし
、いまは時代が違う。消費者は自らの取引に対して不信や疑問があれば、納得のいく答えを
得られるまで追及してくる。当然である。そうすることは消費者の当然の権利として広く認
められているからである。LPガス業界は、現代の消費者が当然の要求として求める合力的
な要求に対して、適切に対応できない古い体質を引きずっている業界ではないかと感じさせ
られる一番の慣行がLPガス業界の「無償配管」の慣行である。

 今日の消費者が料金に疑問をもち、販売店に明確な回答を求めて納得のいく回答が得られ
なければ、料金に対する不信感だけが残ることになる。通常の商品であれば、別の店舗に代
えられるから、不信感を与える販売店は顧客を失い、ひいては市場から排除されるはずであ
る。LPガスの場合「不良販売店」が存続しつづけるのは、LPガスがふつうの商品とは違う
からであろう。LPガス販売事業者を別のお店と代えようと思っても、キャベツや豆腐のよう
に店を代えることはまず不可能である。なぜなら、既存の配管の残存価値や配管撤去費など
、販売店を代えようとすれば、消費者にとっては思わぬコストを支払わなければならなくな
るためである。
 前の販売店から請求された時点で多くの場合、トラブルとなるようである。しかし、その
原因を作っているのは、そもそも契約解除の場合、LPガス特有のコストが発生することをL
Pガス販売事業者が消費者に十分に説明してないからではないか。LPガス販売事業者が14
条書面(契約書)を配付する際、配管の所有関係、配管の減価償却の計算方法など、消費者
に十分な説明を尽くしていなかったからではないか。
 事実、懇談会において紹介されたLPガス振興センターが実施したアンケート結果におい
ても、契約時に販売店から説明を受けた記憶がない消費者が6割を超えているのである。説
明が不十分であるならば、消費者は受取った書面が契約書に相当の重要書類であることすら
認識できないではないか。電力、ガスの小売自由化が進行しているいま、一部に残る「不良
販売店」の存在はLPガス業界のイメージを既存する致命的な影響を及ぼす恐れがある。LP
ガス業界は業界全体で「経営の近代化」に取り組むべきであろう。そうでなければ、「消費
者から選ばれるエネルギー」という標語が画餅に帰してしまうことになるだろう。


◆オール電化への切り換えにともなうトラブル
 LPガスをめぐるトラブルの中でも、この10年間の懇談会の中で最もよく取り上げられた
話題は、オール電化の販売を請け負う電力子会社や関連会社による無理な営業活動が原因と
思われるトラブルである。LPガス協会の委員によると、九州地区の電力会社はその潤沢な
販売促進費を使ってオール電化の住宅一戸につき10万円相当のリベートを設定して設計事務
所や住宅会社などの建築業界に対して積極的な販売攻勢を展開しており、オール電化販売の
営業を請け負っている電力関連会社は強力な販売攻勢をかけていると言われる。

 LPガス団体としては、オール電化の攻勢に対して電磁波の健康被害の問題を提起し警告
を発したりしても、消費者には馬耳東風でオール電化に押されっぱなしの状況とのことであ
る。東日本大震災以降は、国を挙げて「節電」を訴えているにもかかわらず、電力会社と関
連子会社は大量に電力を消費するIHヒーターなどの販売の自粛を要請する気配がなく、L
Pガス販売事業者としては政府に対して不信感をもっていると不満を述べられていた。この
委員によると、クーラーの電力消費量は800キロワットに対してIHヒーターの電力消費量
は5800キロワットにもなると言われている。事実とすれば、行政の目配せが行き渡らなか
った事例として、今後の施策において繰り返されぬよう、活かさねばならないだろう。

 オール電化を販売する電力(または関連)会社は、新築住宅だけでなくガスを使用する既
存の住宅を対象としてオール電化の販売を強めており、その販売活動のベースにも同様の販
促リベートが設定されているとのことである。販促リベートの原資が公共料金である電力料
金にあるとすれば、LPガス事業者とオール電化販売事業者はきわめて不平等な条件のもと
で競争していることになる。しかも、いっそう残念なことであるが、そこでは消費者は両者
の競争の蚊帳の外で、何も知らされないまま、トラブルの当事者になってしまうのである。
すなわら、オール電化側の事業者は、既存の住宅にあるガス供給設備を無断で取り外してし
まう場合も散見されるらしい。おそらく、ガス保安資格をもたない人間によるガス供給機器
の取りはずしは命の危険をともなう恐ろしい行為である。加えて、消費者はしばしばLPガ
ス機器や配管の残存価値の支払いを請求される。懇談会では、オール電化切り換えにともな
うLPガス機器の撤去費用(請求額)が10万円を超える場合もあって、LPガス販売事業者
と消費者のトラブルが報告されている。しかし、このようなトラブルも、LPガス販売事業
者店が契約締結時において契約内容を丁寧に説明し周知しておけば避けられたトラブルであ
る。消費者はオール電化への切り換えにともなって、LPガス販売事業者に対してガス機器
の撤去の要請を連絡し、配管の撤去費と場合によっては配管の残存価値を支払う義務がある
ことを事前に理解しているからである。


◆不良ブローカーの暗躍と地元LPガス販売事業者
 LPガス事業の場合、料金に対する消費者の不信感をあおる形で、詐欺まがいの勧誘を行
うブローカーの存在は懇談会の当初から存在は知られていたのであるが、最近の懇談会では
LPガス協会の委員から話が出されている。不良ブローカーは料金を半額にできると誘いか
けて新規契約をとりながら、実際には2~3カ月もすれば前の契約よりも3倍もの料金を請求
されるというものである。当初はこの種のブローカーの話は、LPガスの競争先進地域とし
て知られている神奈川県周辺での話であったが、先の懇談会では九州地域にも上陸しており
、九州地域のLPガス協会全体として対応を考えねばならないと話されている。

 近年、LPガスも特定商取引法の対象となり、とくに新規の取引の勧誘については消費者が
拒絶の意思表示をすれば、同じ消費者への訪問販売は禁じられることになっていると聞く。
しかし、自宅で寛いでいる消費者が突然、訪問販売員の訪問を受ければ、売買の申込に対し
て自分の考えを伝えることができるかどうかは疑問である。むしろ、訪問販売員は訪問販売
を受ける準備がない消費者の隙を突いて、巧みな話術で拒絶の機会を与えないで契約をせま
ろうとするのではないだろうか。まして、消費者が高齢者であればどうであろうか。
 噂話しの類であるが、特定商取引の改正をめぐっては、訪問販売拒絶のステッカーを門扉
やドアに貼付することをもって取引拒絶の意思表示とみなす案が検討されたと聞く。そうな
れば訪問販売に依存する業界にとっては大きな痛手であろうが、私見では将来的にはステッ
カー貼付をもって訪問販売拒否の意思表示とするのが、わが国の社会的潮流であると感じて
いる。今後、LPガス業界は消費者の権利の動向を業界として研究し、消費者の権利の動向を
先取りしてゆく姿勢と個別・具体的な取り組みが求められることになるだろう。


◆「災害に強い」から「(生死の)最後の砦」となるLPガス
 わが国は、この20年間で激甚災害に指定される自然災害が多発し、多くの尊い人命が失わ
れ、甚大な数の家屋損壊を経験してきた。特に東日本大震災以降の懇談会においては、「国
土強靱化」の言葉が聞かれるようになったが、この言葉の意図するところはハード面の強靱
化よりもソフト面の強靱化にあるようである。導管や電線を利用しなければ届かない都市ガ
スや電気と違い、LPガスは分散型のガス体エネルギーであるので災害地の「軒下在庫」と
して残されたガスボンベをエネルギーとして利用できるので、発災当日から、お湯や焚き出
しができる圧倒的な強みを誇る。

 東日本大震災では、自衛隊、消防、警察など救援隊が被災地に入るまで3~4日を要したと
ころもあるという。その期間をなんとしても被災した人間の力を合わせて生存しなければな
らない。その生存のためのインフラの「最後の砦」となるのがLPガスである。電気も都市
ガスもない状況ではLPガスしか熱源として期待できないからである。LPガスは保守の有資
格者がいれば、被災地に救援隊が来援するまでの数日間を持ち堪えられる条件を満たす、非
常に優れたガス体エネルギーである。こうしたLPガスの他のエネルギーにはない特長を国
民に周知してゆくことは、どこにいても大規模災害が発災する可能性があること、国や自治
体は日常的にLPガスを使用することで、災害への備えとすることを国民に周知すべきではな
いかと思う。私たちが直面している問題は、被災県のLPガス協会と自治体が連携して、LP
ガス保安有資格者を有効に管理して被災地のLPガス復旧オペレーションを優先的に展開で
きるか否かである。

 懇談会でも東日本大震災発災以前から、消費者委員からはこの点(自治体との災害協定)
を心配する声が上がっており、LPガス協会委員からは、九州各県および市町村と各県のLP
ガス協会および各協会支部との災害協定の締結が進められているとの回答はあったが、東日
本大震災以降の懇談会では、各県LPガス協会委員からは個別・具体的な形で回答されるよう
になっている。今次の熊本地震において、各県LPガス協会と自治体の災害協定が活かされて
いることを祈るばかりである。

 平成27年度末時点では、九州各県及びほぼすべての市町村との間で協定が締結され、避難
場所となる公共施設へのLPガス機器の導入や、公共施設におけるLPガス機器使用の慣熟訓
練の一環として、消費者団体や婦人団体との共催で料理教室が開催されている。LPガス機器
や「火」の扱い方は、子供時代から修得してもらうために、LPガス協会から小学校へ講師を
派遣して出前講義を実施している。火という人間文明の原初的存在を扱わせる情操教育とい
う広い目的をもちろん担って行われている事業であるが、災害に強い人間を作るというソフ
ト面の強化という面からも、今後も力をいれてゆくべき活動である。
 尤も、懇談会においては、市町村が指定しているすべての避難所にLPガス機器が導入さ
れているわけではないと報告されている。しかし、平素はオール電化、災害時はLPガスとい
う使い分けが、災害で道路が寸断されている被災地で可能なことか否か、考えるまでもない
ことであろう。各県のLPガス協会やその支部から市町村に対して機器の導入をはたらきか
けているようであるが、こうした活動こそ国の支援が期待される分野である。

 災害対応については災害時での卸売段階のLPガス供給の中核充填所の指定が進められて
いるが、九州地域では事業規模の問題から十分な数の中核充填所を確保できない県も存在す
るようである。卸売段階の合理化が十分ではない点が図らずも災害対応の問題から浮かび上
がっている。今後は、九州地域における卸売段階の整理・統合の話し合いも、災害対策の一
環として取り組まねばならない課題となるだろう。



(平成27年度 九州・沖縄石油ガス懇談会会場風景)


■結びにかえて
 九州地方液化石油ガス懇談会に長年、出席して気付いたことは、LPガス業界はライフラ
インの提供者であるにもかかわらず、新手の販売業者が外部からやってきて市場を荒らし、
トラブルの種をまき散らすことができてしまう「一匹狼」的性質を保持している業界である
ということである。そして、LPガス業界のこの点については行政も事態の把握に難渋して、
簡単に口を差し挟めないような印象をもっている。改めて懇談会の議事録を読むと、50年前
のこの業界は「お客の取り合いをめぐって、切った、張った、刺した、刺された」世界であ
ったとの発言がある。LPガス業界はかつての「一匹狼」的業界がエネルギー産業として国民
に対して責任を負い、行政と話し合う「パイプ」を「ヨリ太いパイプ」へ育てる最中にある
業界であるとの印象をもっている。
 当懇談会の意義が、LPガスを使用する人にも、使用しない人にとっても、平時には生活
インフラとして、災害時には命を繋ぐライフラインとして機能する「社会的意義の極めて高
い産業」であるという事実を正しく理解してもらえれば、幸いである。